第61話 「ビビンバ」か「ビビンパ」か問題

 琴子の通う高校の文化祭は変わっていて、B級グルメという縛りで模擬店を開く。

 単純な屋台や、通り一遍のメイド喫茶はどこもやりたがるので、安易に許可しない。

 

 生徒会がそう決めてしまった。


 よって、変わった趣向のアイデアを出し合い、通った模擬店を採用する。


「他のクラスはどんなのを出すんだ?」

「マカロンアイス。中に凍ったチョコを挟むの。食感がパキッとして最高なんだって」


 聞いてるだけで、うまそうだ。


『アイスモナカ』のマカロン版という安直さもいい。シンプルな分、味も容易く想像できる。アイスマカロンは、コンビニでも人気商品だ。屋台で手軽に食べられるのはいいかも。早く完成品を食べたい。


「ちょっと、ウチの商品を食べて欲しいんですけど?」

 琴子が孝明の肩をさする。


「そのアイスマカロンに勝てる算段は?」

「勝てるか分からないけど、模擬店はやれるはずなんだよね」


 アテはあるらしい。


「実はさ、クラスメイトにサクヤって子がいて、たこ焼きの屋台を持ってるのね。実家がタコ焼き屋らしくてさ」


 ならば、たこ焼きでいいじゃん、と、話がまとまりかけた。

 だが、サクヤ本人はたこ焼きが好きではないらしい。

「もっとオシャレな屋台がいい。考えつかなければ、屋台は貸せない」と言ってきた。


「参っちゃうよね」


「たこ焼きでは、生徒会も納得しないだろうな」


 店員が、ラストオーダーを取りに来た。

「シメは、焼きおにぎりとビビンバ、あと冷麺がオススメですが」


 しばらく麺類が続いたので、冷麺は除外する。


「あたし、焼きおにぎり! ねえコメくん、二人でシェアしない?」

「それいいな。じゃあオレは、石焼きビビンバを」


 シメは決まった。


「かしこまりました。デザートは何に致しましょうか?」


 小さい器のアイスか、サンデーである。


「バニラアイス」

「チョコバナナサンデーをくださーい!」


 琴子が頼んだのは、一番サイズの大きいタイプだ。


「お前、食えるのか? オレもう限界なんだけど?」

「食べられるモーン」


 さすが、これが若さか。


「ねえコメくん、ビビンパなの、ピビンバなの、どっち?」

「どっちでもいよ。ピビンパとかいうが。正確にはピビムパプとか、ややこしいらしい」


 なぜか、琴子はずっと孝明がビビンパを混ぜる様子を伺っている。


「どうした?」




「これだ!」

 唐突に、琴子が立ち上がった。




「なんで、こんな簡単なことに気づかなかったんだろ? バカだな、あたし」

 独り言を言いながら、一人で納得している。


「どうした、コトコト?」


 ふと我に返った琴子が、座り直す。

「ゴメン。ちょっとひらめいた。席外すから食べてて」


 意を決したような顔になって、琴子は席を外す。

 カバンからスマホを出し、好美に電話した。



「あのね好美ちゃん、屋台なんだけどさ、なんとかなるかも!」

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