閑話2-3 学食は当たり外れが大きい問題 後編

 両親に認めてもらえない悔しさと、子育てだけで人生を終わらせたくなかったという思いから。

 現在ようやく、夫に及ばないながらも、教師の職を得ることに。


「根本の家が援助してくれた。ダンナ共々、子どもの面倒を一緒に見てくれて。ありがたかったなぁ。うちの両親とはえらい違いでさ。女の子が欲しかったらしくて、今でもずっと、本当の娘のように可愛がってくれるの。私も孫も」


 わずかに、根本先生が涙ぐむ。


「だから、私にとって、おふくろの味って、根本の、味なんだよね。実の母親は、バレーしか、教えて、くれなかったから」


 根本は時々「ごめん」といいながら、ハンカチで涙を拭く。


 重い話をさせてしまった。

 あの根本が泣くなんて。


「ごめんなさい。そんな状態だなんて知らなくて」

「実栗さんが気にすることないよー。夫は優しい。子供はカワイイ。それにね、夢もあるんだー」


 根本先生の夢は、顧問をしているバレー部を全国へ連れて行くこと。


「でね、オヤジがコーチしてる学校のバレー部をぶっ潰すの!」


 全国一位の強豪ではないか。


 だが、学校の外壁には、全国出場を祝う垂れ幕がある。

 今のバレー部は、勢いに乗っていた。


「応援します!」

「まあ、それは冗談だけどね。生徒たちを復讐の道具に使ったら、それこそ教育者としてアウトだね」


 カツカレーをかきこんで、根本先生は立ち上がる。


「だから、何で悩んでいるのか分からないけど、多少の障害は、乗り越えられるからさ。もっと気楽に生きてていいんじゃない?」


「そう、ですね。ありがとうございました」

 琴子もきつねうどんを食べ終えた。


「じゃ、部活行くわー。実栗さんも、オトナとの交際がんばって」

「止めないの? あたしが、どんなオトコと付き合ってても」


「はは。なんで?」

 自嘲気味に、根本先生は笑う。


「駆け落ちの第一人者がさー、『生徒たちよ、健全なお付き合いをしなさーい』なんて言ったってさ、説得力ないじゃん。そんな私が、どんな恋愛してもいいって言ってるんだから。堂々としてなー」


 琴子は、「ありがとうございます」と礼を言い、トレイを返しに行く。


「ちょっといい、実栗さん?」

 根本先生から、呼び止められた。




「私さ、自分が関西人だって、クラスに言ったっけ?」

 琴子は絶句してしまう。




「たぶん、HRで」


「そうだっけ? まぁいっかー。それじゃあねー」


 根本先生がアバウトな性格で助かった。


「待って。最後の質問!」

 トレイを返す根本先生に、琴子は並ぶ。

 どうしても、もう一つ質問をしたくなったから。


「結婚しようと思ったきっかけって、何?」

 


 琴子が聞くと、根本先生はすごくいい表情になる。



「だって好きになっちゃったんだもん。止められないじゃん?」







 その言葉が、琴子は一番欲しかったのかも知れない。

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