閑話2-2 学食は当たり外れが大きい問題 中編
孝明の幼なじみなら、根本先生も関西人のはずだ。
しかし、根本先生の口から関西弁が聞けたことは、これまでなかった。
「せやで?」
すっとぼけた様子で、関西弁を飛ばす。
孝明と比べ、イントネーションがおかしい。
「あー。もうどうやって発生するのかも忘れちゃってるや」
先生の顔からは、少し寂しさと、嫌悪感が滲む。
「ごめんなさい。イヤだった?」
「ありゃ、顔に出てた? 故郷がイヤってワケじゃないんだけどね、色々と思い出しちゃって」
珍しく、根本先生の表情が曇る。ネガティブが表に出ていた。
「何があったんですか?」
「実はさー、うちね、駆け落ち同然なの」
根本先生の実家である新谷家は、教育委員会の中でも偉い地位にいる。
両親は、娘をバレーの強化選手として育てたかったらしく、バレーの強豪校を勧めていた。
「でもね、高校の見学会で行った公立校で、根本がコーチをしていたの。感動したー。弱小部活なんだよ。でも、みんな楽しそうなの。辛いバレーしか知らなかったからさ、こんなに楽しいバレーをしていいんだって思ったら、彼のいる高校に足を運んでた」
両親の反対を押し切り、若き里依紗は弱小バレー部へ。
いつの間にか、恋に落ちていた。
「高校三年の時に付き合いだしたの。もちろん、両親は反対した。好きにしてもいい条件が、弱小バレー部で全国優勝することだった」
負けたら、自分たちの勧めた強豪校への転校と、オリンピックまでバレー三昧の日々が待っている。
「いやー、今でも思い出すよ。決勝で、私が通うはずだった強豪校と当たるんだもん。ドラマみたいだった」
「結果は?」
「ぶっちぎりで勝ったよ」
先生は、Vサインを描く。
「でもね、それで勢いづいちゃって、両親が根本の方を引き抜こうとした」
教師だから、教育委員会には逆らわないだろうと考えたのである。
だが、二人はバレーより、恋を選んだ。
式は挙げず、籍しか入れていない。
「バレーは好きだったけど、バレーより熱中したい相手ができちゃうとね。そのせいで、情熱も消えていったの」
両親は夫のことを、
「将来のある大切な娘を孕ませたロリコン」
と、今でもネチネチとイヤミを言ってくるという。
「今でも、両親とはすっごい仲が悪いよ、だから私は、故郷も関西弁も捨てたの」
根本里依紗は、新谷の家を捨てた。
子供を育てながら、夜間学校を出る。
「もう勉強する気はなかったんだけど、両親に自分たちが幸せに暮らしているのを理解されないのが、悔しくてしょうがなくってさ」
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