閑話2-1 学食は当たり外れが大きい問題 前編

 孝明が夏風邪で寝込んでいる時期と同じく、好美まで。


『今日はご一緒できなくて、ごめんなさい』


 メッセージアプリの文面を見ながら、琴子はため息をつく。


 好美は始業式だけ出席し、翌日に寝込んだ。


 仕方なく、今日は学食で済ます。

 好美に弁当の作り方を教わるまでは、よく学食を利用していた。

 味はまあまあで、値段は手頃だ。


 きつねうどんをトレイに載せて、見知った顔の元へ。


 授業が昼までなので、生徒は他に誰もいなかった。


「んー? 何か用かな?」


根本ねもと 里依紗りいさ先生の座る席に近づく。


 彼女の献立は、カツカレーである。もう半分残っていない。


「お邪魔しまーす」

「どうぞどうぞ、話があるの?」


 空席が目立つのに、担任の元へわざわざ出向くのだ。何かあると思われて当然だろう。


「うん。質問があって」

「文化祭の屋台で何をするか、かな?」


 それもある。だが、それは生徒が決めるべきだ。担任に聞いても仕方がない。


「根本先生は当時、部活の顧問と結婚したんだよね?」


 自分よりずっと大人の男性と、根本は交際していた。何か参考になるのではないか。


「おっ、大人の男性と付き合うってさ、どんなカンジなの?」

「あんた、オトナのオトコと付き合ってるの?」


 慌てて、琴子は両手をブンブンと振る。


「違う違う。聞いてみたいだけ。ほら、あたし、不倫でできた子じゃん。親には聞きづらくてさ。どうやってコミュニケーション取っていいのか、よく分かんなくてさ」


 ウソだ。


 親とはそこそこ話す。

 この間の海外行きは、祖母の具合が悪くなったから、見舞いに行ったのである。


 母が日本人と外国人のハーフであり、琴子はクォーターだった。

 親戚筋で唯一、琴子が黒髪で黒目なのもそれが理由である。


 祖母は優しくて大好きだ。

 が、親戚からはうとまれ、邪険にされている。

 それより、両親が琴子に何度も謝ったことの方が辛かった。


 虚空を見上げ、根本先生はボーッとした顔になる。記憶を辿ろうとしているのか。

 先生の答えを待ちながら、琴子はすっかり冷めたきつねうどんをすすった。


「別にー。手の掛かる子どもをあやす感覚に近いかなぁ? 先生は、ダンナしか男を知らないから、一概には言えないんだけどさ。多分、他の男性だって同じだと思うよ」

「ありがとうございます」



「参考にならなくてごめんねー」

 根本先生が苦笑する。


「もう一つ、質問していい?」

「おっ、好奇心旺盛だね。何でも聞いて」 



 もう一歩、踏み込んでみた。



「先生ってさ、関西出身だよね?」

 


 わずかに、根本先生の表情が曇った気がした。

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