第53話 ポップコーンの謎フレーバーはワナ問題

「あたしもパパが吸うから、大丈夫なの。でも他人が吸うのは、悪いけど許容できないかな。ゴメンね差別なんだけど」


 大将も、休憩しているときは吸っていた。


 未だに分煙という概念がない店は多い。

 馴染みの大衆食堂が珍しいのだ。あそこは時間制である。

 昭和チックな店は、そこが売りなのかも知れなかった。だから仕方ないのだろう。


「謝ることなんてないさ。別の店に。おっと」

 見知った看板を見つけ、孝明が足を止める。


 

 ちゃんぽん麺のチェーン店だ。




「おお。困ったときはココに限るな。オーダーしたらすぐ出てくる。案外、店のサイクルも早くて席がすぐに空く」

「いいねー。野菜たっぷりでお腹にも優しいよっ!」


 善は急げ。二人は店に入る。


 ちゃんぽんを味わい、気を取り直して映画館へ。


「デートでチェーン店とか、ゴメンな」

「コメくんと一緒だったら、カップ麺でもおいしいよ」


 思わず、孝明は琴子を抱きしめたくなった。往来でなければ、迷わずそうしただろう。




「ポップコーン買うね」

 琴子は売店に並ぶ。


「あ、このイチゴキャラメルフレーバーって、食べてみたい!」

 子どものようなことを、琴子が言い出す。実際子こどもだが。


「ポップコーンって塩味だぞ。そんなフレーバーなんて入れたら、甘塩っぱくて飯が食えなくなる」

「それもそうか。じゃあ、あの生ハムメロンフレーバーって?」


 微妙なチョイスだ。近日公開のギャング映画仕様のフレーバーらしい。


「欲しいなら買ってみろ。で、後悔するがいい」


 琴子はフレーバー付きのSサイズをオーダーした。

 

 孝明はバターなしの塩を保険として購入する。


 フレーバーポップコーンを一口含んだ瞬間、琴子がフリーズした。

 映画情報を宣伝するアニメキャラクターばりに、かくかくした動きになっている。


「甘さが際立ってます」

「だから言ったのに」


 孝明も、マズイと分かっていて一口もらう。

 味を確認し、二度と手を付けない。



「でも、もったいないから捨てません!」


 無理してでも食べるつもりだ。


「ちょっと分けろ。手伝うから」

「すまんのう」


 自分の塩味と、琴子のフレーバーを交換する。


 確かに、人間が口にしていい味ではなかった。

 不味くはないが、ポッポコーンが出していい味わいではない。


 その後の恋愛映画も、微妙の一言だった。


「やるせなかったね」

「どっちが?」

「どっちも」


 映画もポップコーンも、最終的には甘ったるいエンドというオチである。


「食い直そう」


 やはり、自分たちは冒険しない方がいいらしい。


 いつもの大衆食堂に、気がつくと足が向いていた。 

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