第52話 昭和の名残がある店は大抵喫煙所になってる問題

 今日は、琴子と一緒に映画を見に行く。

「デートらしいところへ行きたい」と、琴子から要望があったからだ。


 繁華街のど真ん中に、映画館はあった。

 デパートの八階である。

 隣は家電量販店、周辺を商店街が囲っていた。


 歩くだけでも、退屈がしのげそうである。 


「どれ見るよ?」

 孝明は、公開中のタイトルが映ったパネルを指さす。


「予約してこなかったんだ?」

「こういうのは、公開中のを突撃するのがいいんだよ」


 どの映画も、予備知識がない状態で挑んでいる。


「どれもいっぱいだねー」

「人が多すぎるな」


 どれも予約済みの客ばかり。チケット売り場に人だかりができていないのが救いである。


 アニメ映画はパスだ。まだ夏休み真っ最中で、子供が多すぎる。

 話題の大人向けアニメなどもあった。が、難解なSF設定が、孝明たちの足を遠ざける。


 席が取れそうなのは、恋愛映画かホラー、後はアクションだ。


「ごはん食べた後で寄るから、ホラーはやめとこっか」

 ゾンビ映画なので、食欲が失せそうだ。


「だな。アクションは?」

「キライじゃないけど、知的なアクションっぽいよね」


 もっと駄菓子的な、コメディタッチの映画が好みらしい。

 対して、この映画は少しアダルトタッチで、警察が本格的な社会悪と対決するシティアドベンシャーだ。


 結局、ベタな恋愛映画に足を運ぶ。


「先に飯でも食うか」

 上映時間まで、まだ結構な時間がある。


「何が食いたい?」

 デパート内のレストレンは、列ができていてどこも入れない。

 

 腹ごなしついでに散歩をする。


「軽めにサッと食べたいんだけど、ファストフード店が一番混んでるんだよねー」


 路地を確認して、琴子はラーメンの看板を凝視した。

「この際、ラーメン屋という選択肢も」


「今の時代、軽いラーメンを探す方がしんどいぞ」

「だよね。あそこは?」


 路地の向こう側に、ポツンと店が一軒建っている。

 大衆食堂と同じような雰囲気を醸し出している。

 そこだけ、時代に取り残されたような。


「空いてるな」


「おお、昭和レトロ風。イイ感じですぞ」

 興味津々の様子で、琴子は店内を覗く。

「あたしの空腹センサーにビリビリと……げ」

 だが、琴子は愕然とした。


 店内は、タバコの煙でもうもうとしている。


 空いている理由が、なんとなく分かった。

 この店は喫煙者のオアシスであり、誰も入りたがらないのだろう。


「パスで」

 琴子が手でバツ印を作った。


「オレもパス。煙は平気なんだけど、あそこまでケムいとさすがに」

 仕事柄、孝明は喫煙者を取材することも多い。よく考えると、そういう相手にインタビューする場合は、決まって昭和の名残がある店でだったような。

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