第51話 残り物で作った丼はクセになる問題

 他の野菜も肉も、めんつゆの味を取り込んで、互いの味を引き立てている。


「中でも、糸コンニャクが最高だな」

 これを白飯の上に載せて食べると、格別なのだ。


「大将、玉子を」

 孝明は半ライス分だけ、丼に残す。


 残った肉じゃがを丼に載せて、玉子と一緒にかき混ぜた。

 混ぜた肉じゃがごはんを、一気にかきこむ。


「わーっ。それ、あたしも試そっと」

 琴子も、孝明と同じように、肉じゃがとライスを玉子で絡ませる。


「残り物を食うときはこうやっていたんだ」

「これは、お腹いっぱいになるね!」


 気分的にも、十分満足できるレシピだ。


「もっとすき焼きっぽい味にもできるけどな。それなら、すき焼きを食う方がいい」

「だな。肉じゃがとは別の料理だ」


 玉子を、肉じゃが鍋の中で茹でてしまってもいい。


「これでいつでも嫁に行けるよ」

「でも、進路希望表に書くのはやめとけよ」


「もーっ、いつの話よそれーっ」

 急に、琴子が箸を置く。




「言い忘れてた。コメくん、家の場所を教えて」




 孝明は、箸を落としかけた。

「なんだと?」



「だってさ、何があるか分からないじゃん。付き合ってるんだから、いいでしょ?」

「あ、ああ」


 食事を終えて、孝明は部屋へ案内する。


 駅から歩いて十数分の所だ。大衆食堂の方が近い。


「ここがデパートな。そこを左に曲がると我が家だ」


 今日は買い足す物はない。なので、二階建てのデパートへは入らず、通り過ぎた。

 一〇階建てマンションの三階に、孝明は住んでいる。


「入れないからな。場所を教えるだけ」

「それでいいよ」

「ここだ。カギをくれとか言うなよ」


 さすがに、JKにカギは預けられない。

 地図をメモした紙を、琴子に渡す。


「覚えたか?」

「細かいね。これなら、一人でもこっちに来られそう」


 道に迷われると面倒なので、なるべく詳細に記載した。


「迷ったら連絡入れろ。迎えに行くから」

「へへーん。大丈夫だって」


 琴子は既に、孝明の住所を地図アプリに記録している。さすが現代っ子だ。


 孝明のマンションは、割と覚えやすい場所にあるから、大丈夫だろう。


「もう遅いから、送っていく」

「ありがと」


 琴子の家は、孝明のマンションとは逆方向だ。

 暗がりの中を、琴子と共に歩く。


「せっかくだからさ、あたしの部屋も見る?」


 孝明は、しばし考えた。

「いや、遠慮しておく」



 交際しているのだ。いずれは、見に行くことになるかも知れない。

 が、今ではない気がする。理性を保てる自信もない。


「お楽しみはとっておく?」


「バカ言え」

 駅でタクシーを拾い、琴子を乗せる。 


「じゃあな。風邪引くなよ」

「おやすみ」


 孝明は、琴子を乗せたタクシーを見送った。

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