第49話 やはり馴染みの料理が一番である問題

 琴子ほどの美人なら、男子は萎縮してしまうのだろう。

 自分も同い年なら、琴子に話しかけたりなんてできなかったかもしれない。


「モテると思った?」

「それなりにはな」

「でも、コメくんは顔で選んでくれたわけじゃないよね」


 孝明は首を振る。

「もちろんだ」


「身体目当て?」

「バカ言うなっ」

「冗談だよ」


 さすがに、その冗談は笑えない。


「コメくん」

「なんだよ?」

「ありがと。あたしの気持ち、分かってくれて」


 孝明は、「うん」とうなずく。


「ホントはね、あたしから告白しようかなーって思ってたの」

 薄々気づいていた。琴子も同じ気持ちだと。


 二人が一緒になるのは、時間の問題だったのだ。


「ケジメを付けたって思っていいのか?」

「男らしかった。あたし、コメくんが『好きになってよかったー』って思ってもらえるような、カノジョになるね」

「期待してる」


 夏の終わり、二人はいつもの顔に戻って、大衆食堂に着いた。



「おう、旅行はどうだった?」



「バッチシ。はい、これあたしたちからお土産」

 琴子がクッキーを、孝明が佃煮を渡す。


「気を使わなくていいんだよ。娘の嫁ぎ先なんだから、行こうと思えばいつでもいけるんだからよ」


「まあまあ、そう言わずに」

 半ば押しつける形で、土産を差し出した。


「何食うんだ?」

「ナポリタン二つ」

「おう」


 パスタがフライパンで踊る。

 この香りを求めて、自分たちはここに帰ってきたのだ。


「それよりおめえら、うまくいったみたいだな?」


 大将の言葉に、引っかかるものがあった。


「え、何が?」




「ずっと手、繋いでるからよ」




 そう言われ、孝明たちは自分たちの手を確認する。



 互いの手が相手の手を、強く握りしめていた。


「いつの間に!」

「全然意識してなかったよ!」


 だからといって、外すのも気が引ける。


「でも、繋いだままだったら食べられないね」

「そうだな」


 名残惜しく、手を離す。 



 ナポリタンの他に、大将は土産も開けた。


「おじさん、あたしたちも食べていいの?」


「いいんだよ。もう一つあるから」

 厨房の奥から、大将は別の土産セットを出してくる。

 家族から宅配で送られてきたらしい。


 佃煮とまんじゅうを、三人でシェアし合う。



 二人はナポリタンを堪能し、店を出た。


 旅行から帰ると、誰か一人は決まって「やはり、家が一番だ」という。

 孝明の場合は、馴染みの味が一番だ。


 が、引っかかることがある。



 が、引っかかることがある。




 琴子は、海外の話をするより、孝明たちと話す方が楽しそうなのだ。




 孝明には、それが気になって仕方がない。

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