第47話 お土産は無難なものがいい問題

「皆さん、ごちそうさまでした。貴重なお話を、ありがとうございます」


 去り際に、孝明と琴子は、好美たちのグループに挨拶をする。


「あと、好美ちゃん、ちょっと」

 こっそりと、孝明は好美を呼び出した。


「なんでしょう?」

 旅館の路地裏まで誘われて、好美は何事かと思っているだろう。






「あのさ、オレたち、付き合うことにしました」






 孝明は、琴子と手を繋ぐ。

 琴子も握り返してくる。


「お二方は昨日、『ただの知り合い』とおっしゃっていましたが?」

「夜、海沿いを一緒に散歩しながら、その話をしていたの」


「そうだったんですね。おめでとうございます」

 好美は孝明を不審がることなく、祝福してくれた。


「怪しんだり、しないんだな?」

「しませんよ。和泉さんは琴子ちゃんが選んだ人ですから、大丈夫です」

「そうかな」


「自信をお持ちください!」

 胸の前で、好美が両手を握りしめる。


「大変なのは、これからだけどな」


 未成年と交際するのだ。いろいろと弊害もあるだろう。

 大人同士だと気にならないことでも、割り切れないことだってある。


「そこは、強く乗り越えてください」

「分かった。そうするよ」


 頼りないアドバイスだが、これくらいがちょうどいい。


「いやあ、どうしましょう。まだ顔が熱いです。自分のコトみたいにうれしい!」

 両の頬に手を当て、好美がモジモジした。


「琴子ちゃんを、よろしくお願いします」


「ありがと、好美ちゃん」

 送迎バスに空きがあるからというので、載せてもらう。


「あの子、自分で気づいてないぜ。お前のこと、ちゃん付けで呼んでるの」

 孝明は、バスの先頭に座る好美を見つめる。


 この一日で、好美も変わっているのだ。


「だんだん、あたしの周りに大切な人が増えていくよ」




 駅に到着し、好美たちとはここで別れる。



「さて、どうする? 新幹線まで時間があるが」

「食堂のおじさんに、お土産探そう。駅弁も食べたい」


 土産物コーナーは近かった。さっそく二人で物色する。


「大将って、何が好きなんだ?」


 常連といっても、大将の好物までは把握していない。


「お酒は飲まないって。甘いものか、ごはんの友くらいがいいのかな?」


 右手にはまんじゅうやクッキー類の棚が。

 左手には乾物や佃煮のコーナーがあった。


「クッキーか佃煮が無難か」


 この地は、特別な観光地というほどでもない。値段も手頃である。


「もうさ、両方買っちゃわない? それぞれが選んで買ってきた体で渡そうよ」

 孝明が六種類の海苔佃煮セットを、琴子がヒヨコ型クッキーを選ぶ。


 電子マネーカードを懐から取り出して、孝明が会計をする。


 すぐ横の陳列棚を、琴子がじっと見ていた。

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