第44話 スイカのタネは飛ばすか先に取るか問題

 食事をしている間に、花火大会は終わりを迎えた。


 好美たちは、子供たちを帰すという。


「オレたち、もう少しだけ散歩するよ」



「分かりました。食べ足りないんですね?」

 訳知り顔で、好美はうなずいた。



「ああ。そういうことにしといてくれ」

 本当は違うのだが。



「コトコト、ちょっと散歩しよう。寝る時間には、ちゃんと帰すから」


「分かってる」

 とくに疑うこともなく、琴子もついてくる。


 昼間に歩いた道を逆方向へ進む。


 昼と違って、波は穏やかだ。


 二人は語らない。何を話していいのか。


「何か買って歩くか? 屋台だけじゃ腹が減るだろ?」

 必死で頭を働かせて、出てきて言葉がこれとは。健啖家な琴子を強調するような。


「いいよ。食べ過ぎちゃった。今は歩きたい」

 波打ち際を、琴子はゆったりとした歩幅で歩く。


「旅行、楽しかったねー」

 下駄を脱いで、琴子は素足で砂をすくった。


 指の隙間から、サラサラと砂が零れる。


「そうだな。もっと観光とか行きたいだろうと思ったけど」

「また、今度にしようよ」

 月明かりに、琴子の笑顔が浮かんだ。



 琴子の言葉から、次もあるということである。



 切り出すなら、今しかないと思った。






「付き合おう」




「うん」




 琴子が、孝明の言葉を承諾した。

 まるで、何を言うか知っていたかのように、あっさりと。




「やけに軽く受け入れたな?」

「だって、それを言うために誘ったんでしょ?」


 孝明の心臓が跳ねる。


 やはり、JKはエスパーなのかも知れないと。


「ご、誤解するなよ。別に変なことがしたいわけじゃない。お前が可哀想だからってのもナシだ。ただ、その、もう感情を抑えられなくなっただけっていうか」



 うまく言えないが、気になって仕方がなくなったのだ。



「どんな理由だっていいよ。コメくんになら、何を言われてもうれしい」

 足を止め、琴子が孝明の側まで近づく。





「あたし、コメくんじゃなきゃ、ヤだよ」





 真剣な眼差しが、孝明を貫いた。

「よろしくお願いします、コト……こ、琴子」



「こちらこそ、よろしくね。こ、こ、孝明、くん」




 二人して、「うわあああああ」と唸ってしまう。




「緊張するねー。今でもドキドキしてる」

「はあー。もうヤメ。コトコト。すまん。当分はコトコトで」

「あたしも。ゴメンねコメくん」



 心を落ち着かせてから、宿へ戻る。



「いいところに帰ってきたわね。スイカ切ったから。こっちへ食べにいらっしゃい」


 好美ママが、三角に切ったスイカをお盆に載せてきた。フロント席にドンと置く。


「ありがとうごさいます! わーい!」


 さっき頬をスイカ色に染めていたJKが、元に戻った。


「スイカ割りしなかったねー。その分堪能しよう!」

「お、おう、そうだな」



「ん? なんかガッカリしてる、コメくん?」



「なんでもねえよ」

 孝明は、スイカをシャクリと頬張る。 

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