第43話 ラムネの上手な開け方が分からない問題

「見に行かないのか?」


「これも、取材ですから!」

 好美が、琴子の手を引く。


「そうだよ。観客が花火に向かっている間は、屋台が空く! 今のうちに回れるだけ回ろう、好美ちゃん!」

「ですよね、琴子ちゃん!」


 思考が合理的すぎる。頭がいいのか悪いのか分からない。


 食い意地の張ったJK二人は、縁日へと向かった。

 射的やくじ引きには目もくれず、ひたすら屋台だけを巡る。


 屋台のイートインに座り、琴子が戦利品を確認した。


「えっと、綿アメでしょ、リンゴアメ、チョコバナナ」

 琴子のメニューはデザート系ばかりだ。


「私の方は、フランクフルト、フライドポテト、串焼きカルビ、あと、これはケバブです」

「最近の屋台は凝ってるねー。ケバブだってさ」


 タコせんべいを食べながら、孝明は呆れ果てる。

 見ているだけでお腹いっぱいになってきた。


「ケバブなんて、学校で作れるんでしょうか? 特殊な焼き方をしないと」

 変わった形のツボが必要だったはずだ。


「見てください、琴子ちゃん。肩が違うだけでこんなにもかわいいベビーカステラが」

「好美ちゃん、ナイス!」


「あとやっぱり忘れてはならないのが」


 JK二人が、清涼飲料水のビンをテーブルに置いた。



「ラムネ!」



 女子二人の声が揃う。




「このレトロ感、たまりません!」


 今時、ラムネなんてコンビニでも買える。なのに、このはしゃぎようときたら。


「じゃあ、コメくんもお一つどうぞー」


 ちゃんと孝明の分も買っているという、謎の親切ぶりを琴子が見せる。




 孝明も、実はまんざらでもなかった。




「じゃあ空けるよー」


 三人同時に、ビンのビー玉を落とす。


 ジュワッと炭酸が溢れ出した。


 零さないように、顔を飲み口に近づけていく。


「コメくん、必死! ウケる!」

 琴子が、一人で大笑いしている。


「うるっせーな。これが醍醐味だろ」


「いやそうだけど、ちょっと面白いっ」

 まだ笑っていた。


 戦利品をバリボリとかじりながら、琴子は祭りを満喫する。


「うーん。お祭り最高」

 ハムスターのように、琴子は口を食べ物で膨らませていた。


「お前には風情というモノがないのか?」

「風情でお腹は膨れないよ!」 


 呆れるほど、色気より食い気なヤツである。


 だからこそ、孝明は琴子に好感が持てた。


「こいつ、変わってるだろ?」

 問いかけると、好美は笑顔になる。


「はい。でも、だからみんな、琴子ちゃんが大好きなんです」



 あやうく、「オレもだよ」といいかけた。




「いま、『オレもだよ』って言いかけませんでした?」




 エスパーか、この子は。

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