第35話 フードコートは迷う問題

 電車で数分の所にあるモールへ到着する。


 寄り道せず、洋服売り場へ。できるだけ、さっさと済ませる。


 時期は八月中盤だ。次の季節ものを並べたいためか、どの店もセールを行っている。

 ただ、いいものはなさそうだ。


「いやあ。この際、選り好みはしないよ。コメくんが選んだ物を着るから」

「そう言われてもなぁ」


 JKのセンスなんて分からない! 他の客の視線も気になる!


「やっぱり、こういうのは女子の直感で選択するのが」

「コメくんが選んで」


 問答無用、孝明は退路を断たれた。


「なんでそこにこだわる?」


 大して値段は変わらない。デザインも似たり寄ったりだ。

 迷うとすれば女子の方だろう。

 細かい微調整で、センスが問われる。


 高度な美的感覚など、孝明は持ち合わせていない。


「もうこれで!」

 直感で、孝明は白のワンピースを選ぶ。


「これでいいの?」

 琴子が、疑問を投げかけてくる。

 現在着ている服によく似ていたからだろう。

 白地のシャツに白いプリーツスカートだ。


「これがいい」


 孝明のリアクションが面白かったのか、琴子はニヤニヤしている。

「へーえ、コメくんって案外、純情だよね」


「うるさい! いいから着てこい!」

「はーい」と、琴子が更衣室に消えた。

「どうかな?」


 数分後、カーテンが開く。


 露出を抑えた、ヒザまで隠すワンピースは、JK相手だと可愛くないかもと思った。

 意外と似合っている。


「うん。いいねー」

 くるりと、琴子が一周回った。


「二重構造になってて、インナーも透けないようになってる。ナイスチョイス、コメくん」


「どういたしまして」


 孝明自身、予測していなかった感想だ。目にとまったから選んだのだが。


「あたしはカワイイと思うんだけど、どう、似合ってる?」

「冗談抜きで、似合ってる」

「透ける方がいいなら、違うのを選ぶけど」

「それにしてくれお願いしますもう周りの視線が痛い」


 立て続けに告げると、琴子はまたカーテンを閉めて、私服姿に戻る。


「じゃあ、買ってくるから。コメくんも欲しいのがあったら探してね」

 レジへ向かう途中で、琴子がメンズコーナーで立ち止まった。


「コメくんの服さぁ、これなんてどう?」

 琴子がチョイスしたのは、白いシャツにベージュのチノパンだ。

 シャツはサイズも丁度いい。ネコ柄のプリントさえなければ。


「ダサくねえか?」

「これがカワイイんじゃん! コメくん顔が怖いから、これでバランス取れてる」


 抗議しても無駄のようなので、渋々買うことに。

 財布に痛くないのが救いか。 


「頭を使ったら、お腹空いたね」


 上の階にあるフードコートへ。


 琴子は、迷わず和食のコーナーに向かう。から揚げ定食を頼んだ。

「日本食が恋しい!」


「まったくだ。このフードコートで迷ったら、から揚げが正義だな」

 から揚げに大量のタルタルをくぐらせて、一口で放り込んだ。


「うん、正解だ」

 豪快に、孝明がメシをかきこむ。


 思考を働かせている今は、脳を休ませたい。

 気がつけば、機械的にここの定食を選んでいた。


「隣のハンバーガーも、うまそうなんだよなぁ」


「だよねぇ、でも今は和食! とにかくごはんが食べたい! 贅沢だけど、ハンバーガーは飽きちゃった」

 漬物一つとっても、琴子はありがたそうにかじる。


「やっぱり向こうはハンバーガーくらいか?」

「そんなカンジだった。ボリュームがすごいの。ジュースもバケツかと思うくらいのサイズで来るんだよ」


 そんな生活をしていたら、程よい量の日本食へ飛びつくに違いなかった。


「あ、ごはん粒ついてる」

 白くて細い琴子の指が、孝明の頬から米粒を取り除く。


「お前も口拭けよ、みっともない」

 紙フキンで、孝明は琴子の口周りを拭いた。


 周りから、自分たちどう思われているのだろうか。仲のいい兄妹か、それとも。



 食べ終わり、今度こそ琴子の眠気が限界に達した。家の前まで送る。


「寝坊するなよ、コトコト」

「また明日ねコメくん、ふわぁ。あ、服着てきてよ!」

「分かってる」

「絶対だからね! じゃあおやすみ」

 フラフラと、琴子がマンションの中へ消えていった。

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