第三章 夏と海とJK

第34話 海外土産はマカダミアナッツに限定される問題

「ただいま」

 一週間後、琴子が海外から帰ってきた。


「よう。おかえり」

 大衆食堂の前で、孝明が手をあげる。

 この日は、孝明もオフだ。


 時刻は午後一二時を回っている。


 琴子と一緒に、大衆食堂で過ごす。

 当たり前すぎて、もう一年ぶりのように長く思えた。


「おじさん、やっぱりここのごはんは最っ高だね!」

 ガツガツと、琴子はおにぎりと味噌汁を片付ける。


 孝明の昼食は、お土産のマカダミアナッツだ。

 定番だが、高校生相手にたかるのも気が引けた。

 琴子の無事がなによりの土産だったのもある。


「空港まで迎えに行くのに」

 ぼやきながら、孝明は二杯目のコーヒーを飲む。


「それだと、コメくんに荷物を持たせちゃうじゃん」

 オレンジジュースを飲み、琴子はヨーグルトとフルーツをスプーンで弄ぶ。


「いいっての。荷物ぐらい持たせろ」


「だって。プライベートな荷物もあるから、悪いし」

 それ以上は、琴子も語ってこない。


「友達が……迎えに来てたの。だから、コメくんは呼べなくて」

 言い辛そうに、琴子は告げた。


 朝の六時半に到着し、荷物を自宅に置いて以後は、ずっとカフェで話し込んでいたという。

 寝ぼけ状態で、ドーナツと抹茶ラテしかノドを通らなかったらしい。

 ここに帰って来た途端に、食欲が回復したそう。


 琴子にはもう、孝明とは別に女友人を見つけているのだ。

 彼女たちに自分の存在を知られると、妙なウワサが立つかも知れない。

 琴子は学校のコミュニティともうまくやっているのだ。

 ココで波風を立てると、非常にまずい。


「悪かった」

「コメくんが謝ることじゃないし」


 とはいえ、琴子の判断は適切と言えよう。


「海外、どうだったんだ?」

「普通に海外だったよ」

「なんだ、そりゃ?」


「向こうの話は、旅行でするよ。それまで楽しみにしててね」

 機械的な動作で、琴子はヨーグルトを口へ運ぶ。

 あまり話したがっている様子ではない。


 ならば、無理に聞き出す必要はないだろう。


「今日休みなんだよね、コメくん」

 隣から、琴子が身をのりだしてくる。


「ああ」

「じゃあ、買い物に着いてきてくれないかな?」

「買ってこなかったのか?」


 てっきり向こうで洋服を揃えたとばかり思っていたが。


「あっちのセンスは時代を先取りしすぎててさ。いかにも『強い女子!』ってイメージが強烈で、イカツかったんだよね。でさ、こっちでコメくんに選んでもらおうって」

「オレが選ぶのか?」


 できれば、女の買い物にはついて行きたくない。姉で懲りている。


「時差ボケは平気か?」

「大丈夫。飛行機でちょっと寝たから。それより、意識があるウチに用事を済ませときたいな。夕方までに帰って、明日に備えて爆睡したい」

「分かった。オレのチョイスでいいんだな?」

「いいよ。あ、言っておくけど、水着は向こうで買ったから」


 水着、か。その響きだけで、背徳的な気持ちにさせられた。


「じゃあ、洋服を買うんだな」

「そうそう。カワイイのを選んでね。じゃあおじさん、ごちそうさま」


 会計を済ませ、二人で店を出る。


「朝は友達と過ごしたから、お昼は一緒にいよ、コメくん」

「ありがとう」


「そ、そこはさ、『おう、そうだな』ってくらいでいいのに」

 琴子が頬を染めた。

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