第29話 食べないで食レポサイトに記事を送ってくるな問題

 孝明の仕事は、ネット雑誌に載せるフード関連記事の編集である。

 ウェブのフリーライターから送られてきた原稿をチェックしていた。


 一人はスイーツ担当の主婦で、詩的でキレイな文章を書いてくる。

 だが知識をひけらかすばかりで中身がない。感想がアバウトすぎる。

 美味しいのかどうかすら伝わってこない。


 書き直しを要求したら、

「おいしいなんて当たり前じゃないですか」

 と返信が。


「こいつ、食ってねえな」

 秒で察知し、契約破棄した。


 食べたいと思わせることが仕事だろうに。

 その部分を否定するとは。

 単純な伝達さえおろそかにするような書き手は、契約するだけ無駄だ。


「増えたよな。こういう記者」

「小説家か、っての」

 建一の言葉に、イスにもたれながら相槌を打つ。

「小説ならウソを書いてもいいけど、オレらはライターだぞ。嘘だと分かったら叩かれるんだよ」


 別の主婦ライターが、同じメニューの記事を書いていた。

 文章こそつたないが、誠実なコメントをしてくる。

 娘と一緒にスイーツを食べているシーンの写真も添付されていた。

 ちゃんと食べた感想を頼りに書いている。読んでいて気持ちがいい。

 プライバシーの問題から、「添付された写真だけ削除させてもらう」と断りを入れる。


 もう一人はラーメンの記事だ。

 文章こそメチャクチャだが、ハートの熱さはある。感想のわかりやすさは段違いだ。

 ボリューミーなラーメンをむさぼる追体験しているかのよう。


 両名とも最終的に、孝明が手を入れた。


「みんな、集まってちょうだい」

 社長の若菜が、全員を集める。中央のロングデスクに、全員が座った。


「次回の企画だけど、津村つむらくん主導で行くわ。津村くんお願い」

 若菜に呼ばれ、津村が席を立つ。


「ボクが提案するのは、私立塔山台とうやまだい高等学校、文化祭の取材です」



 孝明がビクッとなった。

 琴子の高校だったからだ。



「どうした、孝明? 冷や汗かいてるぞ」

「いやなんでも。津村が出世しそうだから焦ってるんだよ」

「お前がそんなタマかよ。出世なんか興味ないくせに」


 建一には、見透かされたらしい。


「ここの文化祭が変わっていて、模擬店のテーマがB級グルメなんですよ」


 学生たちで企画立案し、グルメ屋台を出すらしい。


 生徒主導でありながら、年々ハイレベルになっていくと話題になった。

 物珍しさから、各企業体も見学に来るそうで、実際に商品化されたメニューもあるらしい。

 去年は、「光るタピオカ」が最も売れたとか。


「今回は、そこで行われる模擬店の特集を組もうと思っています」

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