第30話 飲んだら乗るな問題

「前の会社でも特集したろ? ウチでもやるのか?」

 手をあげて、建一が津村に質問を投げかける。


「あれは雇っていたフリーライターを使って、適当に書いた記事です。しかも見てください。生徒の保護者が記事を書いてるんですよ。『ウチの妹カワイイでしょ』アピールがすさまじいんです」



 去年、前の会社が作った記事を、スマホで読む。



 たしかに、商品紹介より身内自慢で記事が埋め尽くされていた。

 誰がこんな記事を採用したのか。


 実際、このギャルはカリスマJK店長として、名前を売っている。



「ですから、ウチでは本格的にやろうと思っています」

「じゃあ、学校側の許可をもらってきて」


 天城あまぎをインタビュアー、津村を撮影係に添えることに決まった。



「わたくしがですか? どうして?」

 立ち上がって、天城が若菜に問いかける。


「一つはトレーニング。さすがに学生相手で緊張しないわよね? それと、生徒たちには自然体でいて欲しいの。新卒採用のあなたなら、学生の気持ちも分かるでしょう。だから、物腰の柔らかい天城さんが適役ってワケ」


「なるほど、コワモテの和泉先輩だったら、怖くて生徒たちも萎縮するってワケですね!」

「正解!」


 女子たちで盛り上がらないで欲しい。



「和泉くん、今から学園側に許可をもらうから。津村くんについていって」


 手が空いている運転手が自分しかいないからだ。


 建一は安い居酒屋の特集、若菜はフレンチで出すワインの取材に向かう。車は使えない。


「はい。ていうか、あんたも和泉だろうが。姉貴」


「我が社で姉貴呼ばわりはやめてちょうだい」


 キャリアウーマンめ。


「はーい。んだよ。キー貸せ」

 孝明が手を差し出す。


 若菜は、自家用車のキーを投げ渡した。



「そう怒るなよ、孝明。社長も必死なんだよ」

「分かってるけどさ」


 建一がフォローを入れるが、孝明は不機嫌になる。


「だいたい、なんでオレが?」


 まさか、琴子と親しいからだろうか。そんな理由で新米のお守りなどしたくない。


「孝明の同級生が、そこにいるんでしょ?」


 そっちか。


「アポは取ってあるから。『すぐに向かいます』とメールでも連絡しておいたわ」


「分かった。行ってきますよ」

 不承不承、孝明はカバンを担ぐ。


「あのJKちゃんに会えるといいな」

「うるせえぞ、建一」


 建一とのやりとりで、カンのいい天城が何かを察知する。

「どうされました、和泉先輩?」


「なんでもねえ。行くぞ天城。津村も遅れるな」


 若菜からキーを借り、孝明はハンドルを握った。

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