第24話 焼き鳥はタレと塩のどっち問題 その1

「んだよ孝明! 塩だろが、塩! 俺が飲みたい店に連れて行けよな!」


 帰宅時間となっても、孝明と建一は未だに口論していた。


 今日は久々に、建一と飲みに行く。口止め料として、こちらから飲みに誘ったのだ。


 琴子には、「今日は大衆食堂へ行けない」と連絡を入れてある。

 なのに、未だタレか塩かで大モメにモメていた。


「なんでだよ。焼き鳥はタレだろ! メシには断然タレだ!」

「酒には塩なの! あそこの焼酎がいい!」

「タレ!」

「塩!」


 ここまでケンカになっているのにはワケがある。

 タレのうまい店と、塩味がうまい店が違うのだ。

 酒の種類も別なのである。

 しかも、塩味の店にはライスが置いてない。完全に、酒飲み御用達の店なのだ。


「あのですね、お二人とも!」

 作業机をバンと叩き、天城あまぎがメガネを直す。

 彼女は、二人の後輩である。建一を追いかけて、若菜の会社に入った。


「仲睦まじいところすいません、お恐れながら、発言させていただいてもよろしいでしょうか?」


 天城の気迫に気圧され、二人は黙り込む。


「ここはひとつ、どっちかに行ってみましょう! 次の日に、別のお店に行けばよろしいのではないでしょうか!」


 もっと暴論が飛んでくるかと思ったが、実に堅実な提案だ。


「そいつは名案だな。そうしようか、孝明」

「ありがとう、天城さん。迷ったら天城さんだな」


 二人に褒められ、天城が頬を染める。


「そんな。ワタシは単に、お二人が口論している姿を、これ以上見ていられなくて」

「ありがとうな。そんなに建一のことを」


 孝明は、天城の心労をねぎらった。

 建一に気がありそうだったから、さぞ安心しただろう。


「いいえ、至近距離でイチャイチャされて、悶えそうだったのです」

 やけに腐敗した返答が飛んできた。


「だったらタレに行くか」

 建一が折れてくれたので、タレの店へ向かう。


「焼酎はいいのか?」

「いいのいいの。おごってくれるんだろ? その代わり、塩の店じゃおごるぜ」

「期待してる」


 カウンターに通され、建一はタレ焼き鳥とハイボールをあおる。


「くー。日本酒なら塩だが、ハイボールをガブ飲みするならタレかなー?」

 この店のハイボールを、建一は気に入ってくれたようだ。


「今は夏だしな」

 コーラを流し込む孝明には、よく分からないが。


「いいのか、建一?」

「あの焼酎はいつでも飲めるからな。それに、やっぱりあそこへは酒好きと行きたい。ポン酒が好きな女って、どっかにいねえかな?」

「マッチングバーなんてどうだ?」

「無理だな。難易度高い」




 三杯目のハイボールを空けた段階で、建一が切り出してきた。




「それはそうと、孝明。あの高校生、何もんだ? やけに親しかったが」



 来たぞ、と、孝明は身構える。

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