第23話 そばめしを知ってるか問題

「今から焼きそば作ろうか? 乾麺ならあるから」

 琴子の提案に、孝明は首を振る。


「分かった。それ終わったら、あとでソイツを使ってそばめしでもするか」

 焼きそばとライスを混ぜたものだ。


「いいね! 初めて食べる! 本場のヤツを食べてみたい!」


「よし、今から作るからなー」

 再び、孝明は琴子と一緒に、ホットプレートの前に立つ。


 結構な量のお好み焼きを食べたので、焼きそばは具なしだ。

 コメと組み合わせただけでもきっとうまい。

 ソバを切りながら、孝明は完成形に胸を躍らせる。



「ところでさ、コメくん」

「ん?」



「いつまで、こうしてるのかな?」

 気がつくと、孝明はずっと、琴子の後ろに張り付いていた。




「すすすすまん! すぐにどくから」

「いや、いいけどさ」

「ダメだろ。こんなところ見られたら」


 言ってる側から、




「えっ、孝明?」




 店に、建一が現れた。



 彼には、自分たちの姿は「JKを背後から襲う同僚」と映っただろう。



「げ、建一……」



 どうしてここが分かった? 場末も場末、繁華街から結構距離があるというのに。



「あのさ孝明、やってる?」



「ヤッてない、オレは断じてヤッてない!」



 必死の形相で、孝明は建一に弁解する。


「いや、この店のことなんだけど?」

「店もやってない」



「そっか。店も、か。じゃあまたな」

 あっさりと、建一は去って行く。



「ちち違う、誤解なんだ!」

 走り去る建一を、孝明は手を伸ばして見送るしかない。



「今の人は?」

「同僚だ。今の仕事も手伝ってもらってる」

「そっか、それは、ヤバいね」



 終わった。


 孝明は今後、物笑いの種になってしまうだろう。



「あたしたちの関係、終わっちゃうのかも知れないんだね」


「いや、そうはならない。それだけは約束する」

 胸を張って、孝明は宣言する。


「なんで、そんなに必死になってくれるの?」


「オマエを、ひとりぼっちにしたくないからだ」

 孝明自身が、一緒にいたいのもある。


 けれど、一番の理由は、琴子を孤独にしたくないからだ。



「お前さんには友達がいる。だから、その子たちと仲良くしているなら、オレはいいんだ。オレが必要にならなくなるのが、一番いい。それでも夜は一人になってしまうだろ?」


 一瞬、孝明は言いよどむ。


「オマエが迷惑じゃなかったら、オレがついてる。いいかな?」

「いいよ。ありがとコメくん」



 詭弁に聞こえたかも知れない。明らかに、単なる孝明のワガママだ。


 ソバとメシ、一見相性が悪そうにも見せる組み合わせである。


 しかし、今日のそばめしはまた格別な味がした。


 孝明と琴子、どっちがソバとメシかは分からないが。



「おう、すまねえな」

 大将が帰ってきた。


「お、おかえり」

 預かっていたカギを、琴子は大将に渡す。


「どうしたい?」

「な、なんでもないよ」


「大将、平気か?」

「ああ。家族との話は長引いたがな」

 何を話したのかまでは、聞けなかった。

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