第22話 初めての共同作業が「お好み焼きカット」でいいのか問題

「んだよ、動くなよヤケドするぞ。いいか?」


「う、うん」

 気を取り直して、琴子が再度ヘラを構える。


 孝明は、あくまでもサポートだ。

 琴子の勢いに任せる。


「せーのっ、ほっ!」

 どうにか、琴子はお好み焼きをひっくり返せた。


 裏面は、うまく焼き上がっている。バラを指摘しなければ、生焼けになっていただろう。


「えへへ、初めての共同作業だねっ」

「バカ言うな。付き合ってすらねえだろが」

「んー、分かんないよー?」


 だとしても、こんな初めての共同作業はイヤだ。


「なんでまた、お好み焼きなんて?」


「ウチの学校さぁ、もうすぐ文化祭なんよ」


 琴子のクラスは、模擬店を出すらしい。


「だから、ちょこっとくらい貢献しないとって思って」


 てっきり、琴子はクラスの行事に興味がないと思っていた。

 学校の話をあまりしないから。


 彼女の世界は、大衆食堂で完結しているのだと思っていたのだが。


「意外だな。以前のコトコトからは考えられん。友達の影響か?」

「そうかも。うし。マヨネーズは?」

「欲しい。米と一緒に食うからな」

「わかった」


 琴子が、ソースをお好み焼きの上に塗りたくる。

 鉄板の上でソースが焦げていく香りが、格別なのだ。



「ああいいにおい、たまらん」



「ちょ、コメくん!」

 琴子が、孝明の前から飛び退く。



「ちっげーよ! ソースの匂いを嗅いでるの!」

「明らかにJKの匂いを嗅いでたよ! 帰ってJKの使っていたシャンプーの銘柄を探して、飲む勢いだったよ!」

「嗅いでないから! ほら焦げるぞ!」


 ソースのせいか、焦げた匂いがお好み焼きから立ちこめている。


「うわ、やばっ!」

「オマエも食うんだぞ。焦げたらイヤだろ?」

「待ってよ!」


 急いでひっくり返したせいか、形が崩れてしまった。


「はい、かんせーいっ!」

 琴子がホットプレートのツマミをひねって、保温モードにする。

 完璧な完成にはほど遠いが、味が良ければいいのだ。


「さてさて、冷めないうちに食おう」

「そうだね」


 二人は、お好み焼きの前で手を合わせる。

「いただきます」


 お好み焼きを半分に切って、ヘラでつつき合う。


「これ、おいしい!」

 ソースの甘みと辛子との相性が絶妙で、いくらでもいけてしまう。


「これは早くメシで追いかけないと」


「忘れてた。ごはんは自分でよそっ……あちゃぁ」

 琴子が、ため息をつく。


 炊飯器が作動していない。


「ごはんさぁ、ラップしてるのしかないや」

 冷蔵庫から、琴子が冷えた白米を出す。


 炊き忘れではない。元々炊いてないのだ。外出し、営業する予定ではなかったから。

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