第21話 お好み焼きはおかずか問題

「へい、らっしゃい」

 珍しく、琴子がカウンターの奥に立っていた。ハッピまで着て。


「食品衛生法は、どこへ投げ捨てた?」

「もー。ここはコメくんをもてなすために開けただけだし。誰にも迷惑掛けないって約束した上で、使わせてもらってるから大丈夫」


 カギを預かっているだけらしい。


「大将、どうした?」

「親戚どうしで、話し合いがあるんだって。厨房を貸してって言ったら、『営業しないんだったらいい』って貸してくれた」


 素人に営業させたら、それこそ大将は廃業だろう。


「で、何ができるんだ?」

「お好み焼きくらいかな?」


 

 ご丁寧に、ホットプレートを用意してある。

 隣にあるボールには、二人前くらいのタネが入っていた。


「じゃあ。それをくれ。あと白飯」

「え、ごはん食べるの?」


 また、場に緊張が走る。

 いつぞやのシチューやナポリタンとは一線を画した、より深い溝ができあがりそうだ。


「オレの実家、関西なんだよ。だからお好み焼きにメシってのは割とアリで」

「ふーん。よく聞くよね、それ。この間話したギャルもさ、両親は大阪のミナミ? 出身なんだって。家にたこ焼きプレートがあるのは、クラスでも自分くらいだろうって」

「オマエ、そいつキライなんじゃなかったか?」


 以前、おにぎりの話で出てきた、いけ好かないギャルのはずだ。


「別に。今はもうケンカしてないよ」


 スプーンで、琴子は生地をかき混ぜる。

 お好み焼き店でやるように、ちゃんと底からゆっくりと。


 熱したホットプレートに、琴子が生地を流す。


 ジュウ、と、プレートから音が鳴る。


「もっと大きめに作ろうぜ。一緒に食おう」

「おっ、いいねー」

「その分、ひっくり返す難易度が上がるからな。楽しみだ」

「ドSだね、コメくんって!」


 言いながら、琴子は生地を大きくしていく。自分も食べたいのだろう。


「エビか」

「冷凍だけどねー。ワタヌキとか知識はあっても、うまくできないし」

「いいよ。できることをすればいい」

「そう言ってくれると思った」


 充分に焼き上がり、ひっくり返す過程に。

 ヘラを両手に持って、琴子が身構える。


「いきます。見てて」

「先に豚バラ載せてくれよ」

「ゴメン。生肉触れない」

「よくそれでお好み焼きを作ろうと思ったなぁ!」


 仕方なく、孝明は自分で豚バラをお好み焼きへ投下した。


「一人でひっくり返せそうか?」

「うーん、無理っぽい」

「しょうがねえなぁ、もうっ」

 孝明は、琴子の後ろに回る。ヘラを持つ琴子の手を掴んだ。

「うわっ! ちょっとコメくん!」

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