閑話1-2 おにぎらず浸透してない問題 中編

「あの、そのおにぎらずも、分けていただけないでしょうか? きっと美味しいと思うので」

「いいよ大丈夫! 食べて食べて」


 琴子と楠が、お互いのおにぎりをシェアし合う。




「やだぁ。ワタシ、人の手で握ったおにぎりなんてたべられなーい」




 鼻につく声が、琴子の耳に入ってきた。

 クラスメイトの井原いはら サクヤだ。


「あんたたち、よく人の手で触ったものなんて普通に食べられるよねー?」




 他の女子たちも、サクヤの態度を見て不快感をあらわにした。



 サクヤは、自分より弱い立場にも、当たりが強い。

 また、何かにつけて琴子に因縁をつけてくる。


「琴子がカワイイからやっかんでる」と、クラスの女子が教えてくれたことがあった。

 だが、顔だけならサクヤの方が上である。何をねたむ必要性があるのか。


 理事長の親戚らしく、教師たちも腫れ物に触るような扱いをしている。

 そんな中途半端な対応が、サクヤをより増長させていた。


 担任の体育教師も、「まあまあ」とサクヤをなだめるだけ。

 非暴力主義を謳うのはいいが、それならもっと毅然に対応して欲しい。


「見てみて。ワタシなんか、ほら。珍しいでしょー? ライスで挟んだサンドイッチよー」


 サクヤが、弁当箱を見せてくれた。

 ライスの間には、サンドイッチのように肉や野菜が挟んである。


 楠が、「あっ」と声を上げた。


「何よ。文句あるの?」

「い、いえ」


 サクヤの気迫に、楠が怖じ気づく。 


 知らないようなので、教えて上げた。


「あのさ、それ、おにぎらずだよ?」「は?」

「あたしと一緒じゃん。おにぎらず。おいしそう」


 サクヤが鼻で笑う。

「ありえないでしょ。ママもおにぎり作らないって。お肉でしょ、レタスに卵。どう見てもライスサンドだって」


「それをおにぎらずって言うんだけど?」


 琴子が、楠に「だよね?」と問いかける。


「はい。ウチのお弁当屋さんで売ってるおにぎらずに近いです。でも具材はいい材料を使っています」


 バカにされたと思ってか、サクヤの顔が、青ざめた。


 クスクス、クラスメイトたちが笑う。


 キッと、琴子は声のした方を睨んだ。


 笑い声が消える。


 いくら気にくわないからといって、サクヤの弁当まで嘲笑することは許さない。



 食事は、楽しく食べるものだ。



 どんな美食も、つまらなそうに食べていたら楽しくない。




 それを教えてくれたのは……。


 そうか、自分が楠に話しかけた理由が分かった。

 楽しそうに食べて欲しかったから。


「フフ」

「何がおかしいのよ?」


「あ、ゴメン。思い出し笑い」


「はあ?」と、サクヤが不快感を露わにする。

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