第11話 ホットケーキとパンケーキの違いが分かるか問題

「コトコト、オマエいつから味オンチになった?」

 琴子の皿を見て、孝明は絶句した。


 今日も、孝明の朝はホットケーキから始まる。

 子どもの頃を思い出してから、孝明はすっかりホットケーキのトリコになってしまった。



 かたや琴子は、なんとホットケーキにベーコン・スクランブルエッグを載せているではないか。

 ケチャップと塩コショウまで振ってある。


「いくら珍しい物好きだからって、限度があるぞ」



「あたし、コメくんがなに言っているのか、さっぱり分からない」

 心底バカにしたような口調が、琴子から飛んできた。



「だからな、なんでホットケーキにベーコン載せてんだっての!」

 琴子の皿を指さし、孝明は声を荒げる。 




「これ、パンケーキなんだけど?」




「パンケーキだって?」 


 なるほど。これが世間で話題のパンケーキか。

 初めて見た。

 見た目はホットケーキそっくりだが、何が違うのだろう?


「パンケーキと、ホットケーキって何が違うんだ?」


「え? 生地にお砂糖入ってるかどうかだよ?」



 琴子から教わることになるとは。



「パンケーキ食べたことないの? 今どきさ、クレープ屋さんでもツナやカレーやら出すんだよ? 甘いもの苦手な人用にさ」


 スイーツ店に甘味以外のメニューがら並んでいるのを、最近はよく見かける。


 孝明だって、クライアント用に「塩大福」をよく買いに行かされたではないか。食べたことはないけど。


「分からないなら、食べてみる?」

 琴子が、パンケーキを一部分だけ切ってよこす。ベーコンスクランブルエッグも一緒に。


「いいのか?」

「異文化交流、異文化交流」


 甘塩っぱくて口に合わなかったらどうするか、という不安が、一瞬よぎる。


 とはいえ、未知の領域へ踏み込むのも悪くない。


 空いたスペースに載せられたパンケーキを一口でいただく。


「ああ、これはうまい」


 油っぽいかと思ったが、しつこくなくて朝食にぴったりだ。

 トーストとはまた違った趣がある。


「この未知な感覚は、あれに近いな。フルーツサンドを食った時」

「分かる。変わったものを食べたーって感じだね」


 ケーキとはまた違った風味が良いのだ。


 そう考えると、パンケーキとは逆である。こっちはおやつな見た目に反し、おかずだ。




「親が家にいるときは、いつも朝はこれだったなーって。そう考えたら、無性に食べたくなってさ」




「そっか。これがお前さんにとって、朝の味なんだな」



「そういうこと。じゃあごちそうさま。またねコメくん」

 お代を済ませ、琴子が出て行く。



「大将、オレもごちそうさま」



「待ちな」

 珍しく、大将が孝明を呼び止める。



「あのなぁ、ホットケーキってのは、『和製英語』ってだけだ。厳密にはパンケーキの一種で、パンケーキとたいして違いはないぜ」




 だまされた!

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