なしひとへのお題は『君のことが好きなんだ・泣けない死神・解けないように絡める指』です。
他人の葬式に忍び込むのが趣味だ。
新聞なんかで、近所で行われる葬式の日程を把握し、その時刻にもっともらしく喪服なんか着て、生前の故人の知り合いですって顔して、偽名で参列する。香典には千円札一枚きりを包む。
周りの人間が泣いている横で、自分も悲しんでいるんですよって顔してハンカチを目元に当てる。線香を上げる際に親族のがっくりと来ている目を見ながら深く頭を下げる。
何が楽しいのかと問われても、私は上手く答えられないだろう。
ただ何となく他人の死に興味があると言ってしまえば良いだろうか?
念のため断っておくが、私は他人の葬式に忍び込むこの変な趣味以外は、至ってまっとうな人間だ。
うん、きっとたぶんそう。
強いて私のさらなる変なところを挙げるとすれば、たまに人を殺してしまうことくらいだろう。
やはり冬ほど人は死にやすい。体力のない老人や病人が寒さに耐えきれず、夜明け前に息を引き取ったり、うっかり外で寝た酔っぱらいや雪道での交通事故が多くなる。
逆に夏から秋の間の季節は、人がさほど死ににくくなる。人は読書や食欲、スポーツ程度ではなかなか死ぬ機会に恵まれない。
そんな時期、近所の葬式が減ってしまう退屈さから、私は私が葬式に参加するために、葬式の主役をわざわざ自らの手で用意する。
できるだけ、老人。一人暮らしの、親戚連中からもその生存を忘れ去られているような、孤独な人間。
彼らの身体と同じように、彼らの家もだいぶ古い。夜明けの直前に鍵を壊して侵入し、寝ている家主に馬乗りになってその皺くちゃの鼻と口を濡れた布で強く押さえる。
そのまま七分。そのくらいの間酸素の供給が絶たれると、人間の脳は致命的なほどの損傷を受けて、あとから蘇生を試みようとも九割九分死ぬようになる。
一人暮らしの老人が死んだところで、それに気付く人はなかなかいない。まだ残暑の残る季節であるがゆえに、遺体はそこそこに傷む。それこそ死因が他殺か自然死かも気付かれないくらいに。
そうして私はしれっとした顔で、自分が殺した相手の葬式に紛れ込む。
最近この辺りでお葬式が多いわね、と同居している母がぼやく。
知り合いがどんどん減ってしまって寂しいわ、と同じく同居している祖母がうなずく。
近くに死神でもいるのかもね、と私は微笑む。
お題小説 言無人夢 @nidosina
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