なしひとへのお題は『君以外要らない・小さな自己主張・今は痛みすら幸せだ』です。

 今日も今日とて、少女たちは戦争を続けている。

 僕の住む街が彼女らの戦場に選ばれてから、二ヶ月が経とうとしている。

 かつて僕が登校路に使っていた街路は、少女歩兵の死体でほとんど足の踏み場もないほど血の海だった。

 まったく、一体どこからかくも湧き出てきたのか不思議になるくらい、十代の女の子たちは互いを撃ち殺し合い、刺し殺し合い、絞め殺し合っていた。

 気味の悪いことに、死んだ彼女たちは全員同じ顔をしている。じつのところ、彼女たちは一人の少女から人工的に生み出されたクローン兵器なのだ。

 兵器として産まれたのだから、その存在意義を示すために互いを殺し合う分にはまったく構わない。が、僕の街を巻き添えに破壊しないで欲しいというのが強めの要望だ。

 さらにひどいことには、クローンの元になった少女というのが僕の妹だというのだから、やってられない。

 少女歩兵たちは皆、僕の妹と同じ顔をしていた。

 何言ってるかわからないだろ?

 僕も正直意味がわからない。

 開発中の増殖炉に、妹は誤って落ちてしまったのだろうか? それとも、このクローン兵器を開発したマッド・サイエンティストは極度のロリコンだったのだろうか。

 真相は依然知れず、どうにかして妹本人を問い詰めたいところだが、あいにく「木の葉を隠すなら森の中」との言葉が生易しく聞こえる程度には、そこら中に妹とまったく同じ顔の死体が散らばっているのである。

 妹は行方不明だ。妹のクローンならそこら中にいるし、彼女たちは互いにマンションの影から対戦車ミサイルを撃ち合っている。


 先日、実家の前でちょうど死にかけている妹のクローンを一人見つけた。

 これ幸いと、僕はそいつの指を踏み折りながら、僕の妹の情報を上手いこと吐いてくれるよう、その少女を拷問した。

 しかし元々の致命傷が深すぎたのか、質問には反応せず意味不明瞭な叫びを上げるばかりで、ものの数分でくたばってしまった。

 そのとき、僕は奇妙なことに気が付いた。

 そのクローンの顔は間違いなく妹のその顔であるにもかかわらず、どうにもどこか違和感があったのだ。

 強いて言えば、顔が整いすぎている。

 しばらく観察して、僕は違和感の正体に気付いた。

 前歯に欠けがないのである。

 僕の妹は小学生の頃に結構派手に転んだことがあって、それ以来、前歯の先が少し欠けてしまっているのだ。

 どうもその後天的な欠損は、クローン少女たちには引き継がれなかったらしい。

 つまり僕が本物の妹を探し出すためには。街中の戦火を掻い潜り、転がっている少女たちの死体の口元をいちいちこじ開けて、その前歯を片っ端から確認すれば良いのだ。

 ……むしろ手間が余計に増えている気がする。

 やれやれ。

 何はともあれともかくも。いずれ誰かが、この馬鹿げた事態に適当なオチをつけなければならないのだ。

 いつか長い旅路の果て、僕が死体ではない本物の妹に生きたまま会えたのなら。

 反対側の前歯も折ってやろうと、僕は内心決意を固める。

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