なしひとへのお題は『離れないで、離さないで・君の存在が苦しい・解けたリボン』です。

 傷跡がなくとも強い痛みを感じる。

 僕はその想像における痛みを、すでにそこにあるものとして強く感じることができる。

 それは君を失う痛みだ。

 かつて、僕を傷付けられるものはこの世界に一つたりともなかった。

 身体的な痛みはただの神経発火だ。

 精神的な痛みはただの社会慣習だ。

 しかし君を失う痛みは、僕自身の大きな部分を失う痛みに他ならない。

 それは想像すらできないほどの喪失だ。

 たとえばそれは輪郭のない顔だ。たとえばそれは尾のない蛇だ。

 僕はその痛みをこれ以上ないほどに恐れる。君を失えば、僕は心臓の動かし方すらすっかり忘れてしまうに違いない。

 そうなのだ。誰にも欠けさせられることのない完璧で無垢で純粋だった僕は、いま失われようとしているのだ。

 だからこそ僕は、君をひどく嫌うのだ。

 僕に触れないで欲しい。僕に微笑みかけないで欲しい。

 僕の内側に染み込まないで欲しい。僕の表面に根を張らないで欲しい。

 世界でただ一人、君だけが僕をこんなにも傷付ける。

 あぁしかし、どうか願いが叶うなら。

 君が死んだそのとき、僕は君の硬い亡骸に咲く最初の花でありたい。

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