なしひとへのお題は『涙の匂い・そんなもののために、・君を背に乗せて太陽を目指そうか』です。

 竜が真の悲しみとともに流した涙は、燃え盛る紅蓮の宝石となるそうだ。そしてその涙石は、異国の闇市で高値で取り引きされている。

 その噂を聞きつけた廃れた桃畑に住む盗賊三人は、竜を探す旅にでかけた。

 彼らにはそれぞれに大金を必要とする理由があった。一人目の男には病弱な妹がいた。二人目の男は祖国で革命を起こすのための資金が必要だった。三人目の男は、ただひたすらに金が大好きだった。

「しかし竜とやらに運良く出くわしたとして、どうやってその涙を頂戴する?」

「それについては俺にひとつ考えがある。俺の祖国で詠まれた詩にもこうある。『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』ってな」

「馬鹿言うな、殺しちまえばすべては水の泡だ」

「馬鹿はお前だ。この詩はあくまでものの喩えでな、実際に殺すわけじゃない。半殺しの目に合わせれば、いくら竜と言えども涙を流すに決まっている」

「竜を半殺しにできる奴なんかいるものか。この国の伝説になっている、神話の英雄だってできやしないだろう」

「ならどうする?」

「竜が大切にしている人間を殺すんだ。そうすればいかに神獣の竜と言えども、血の涙を流すに違いない」

「そんな都合良く、竜と親しい人間なんかいるもんか」

「俺の祖国では『隗より始めよ』という言葉がある」

「……つまり、どういうことだ?」

「俺たち自身が竜と仲良くなればいい」

「「……」」

「ちょっと待て。色々異論はあるが、もし仮に上手いことお前の言う通り、俺たちが竜と仲良くなれたとしよう。それで竜を悲しませるために、俺たちのうちの誰を殺すんだ?」

「それはそのときの流れで決めようじゃないか」

「「……」」

 翌朝、三人のうちの一人が真夜中に崖から突き落とされて死んでいた。それは病弱な妹を持つ男であった。

 残った二人は引き続き、竜が住むと言われる岩山を目指した。

「しかし本当にどうしたものだろうか。竜を真に悲しませるだなんて、一体何をしたらいいのか、見当も付かない」

「目薬なんてどうだろう?」

「……」

 その夜、二人のうちの一人が背中を袈裟斬りに斬られて死んでいた。それは革命を志す男であった。

 残った一人は、やがて竜の眠く丘のくぼみにたどり着く。

 伝承に聞いていたより幾分小さく、若々しい竜であった。ひょっとしたら子供の竜なのかもしれないと思った。

 男は正攻法でいくことにしたようであった。跪いて、こんこんと眠り続ける竜に向かって呼びかけた。

「竜よ、汝が涙を分け与え給え。

 私はそれを求めて仲間とともに千里の道を歩んできた。それは苦しい旅路であった。

 仲間のうちのある者は病に侵された妹を故郷に残し、無念のうちに命を落とした。また別の者は、祖国の革命を夢見たまま呆気なく息を引き取った。

 もしも汝に心があるのなら、竜よ。その涙を私に分け与え給え」

 竜は眠りを妨げるその声を煩わしがって、蝿を払うかのように炎を吹いた。

 金好きの男は一瞬のうちに燃え盛る紅蓮となり、あとには灰すら残らなかった。

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