なしひとへのお題は『行方知れずの恋・無垢な瞳が瞬く・喉が嗄れるまで』です。

 ゴミ箱に捨てられた赤子だ。その赤子はまもなく死のうとしている。

 街灯の光は届かない。したがって彼が見る最後の光景は、都会の反射光で霞んでいるまだらな星空になるはずだ。

 彼はあなたに恋するために産まれてきた。ほんの数時間前の話だ。しかし彼の恋はあなたの手元まで届きはしない。不運にも、彼を産んだ親はろくでもない女だった。駅公園の落書きまみれのトイレで彼を産んだその女は、その辺に捨てられていたコンビニのビニール袋で彼を包み、口を固く縛ってソースの焼ける匂いが漂う飲食店裏の生ゴミの上に置き去りにした。

 だから生傷のように痛ましい彼の恋が、あなたの元へと届けられることは、これまでもなくこれからもない。

 いま、彼は産まれて初めて目を開く。ビニールの隙間から残酷で肌寒い暗がりの世界を覗く。その氷のように冷たい外気は、羊水にまみれた彼の体温を容赦なく奪う。

 その赤子はしかし、産まれてから一度も泣いていなかった。

 人の子は産まれた瞬間から泣き続けて、死ぬまで涙を流し続けている。

 悲しみを理解せず、快楽を享受せず、あなたは今日も痛みを噛み締めて泣き続けている。

 やがてその赤子は、とうとう一度も泣くことをせずに死んでしまう。

 あなたが受け取るはずだった恋心は、彼の無垢な魂とともにゴミ溜めで腐り始めている。

 そしてあなたは、今日も一人で死へと一歩、また一歩と、歩みを止めずに泣き続けている。


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