なしひとへのお題は『恋しく思う気持ちはどこへ・常春の楽園・好きだと言わせてみろよ』です。

 告白デスゲームが始まって以来、今日までに地球人口の約四割が死んだ。

 告白デスゲームとはその名の通り、告白したほうが死に、告白されたほうが生き残る、命懸けのラブ・オア・デッド・デスゲームである。

 巷で理解されているたぐいのデスゲームと違わず、告白デスゲームにも闇の主催者がいるはずだった。その正体は神なのであるとか、処女をこじらせた財閥の令嬢なのだとか、あるいは地球全体の人口増加を憂いた世界保健機関(WHO)なのだとか。

 とにもかくにも、始まってしまったものは仕方なく、全人類は強制的にそのゲームへの参加を義務付けられていた。

 ルールは単純で、告白は死を招く。かといって、じゃあ告白しなければいいのかというとそういうわけでもなく、タイムリミットの一年後までに告白されなかった人間はラブゾンビになってしまい、周囲にいるカップルを手当たり次第に食べて育つ、生ける屍になってしまうという話だった。

 人類はジャックされた街頭ビジョンを通して、そのVTRを目撃した。自家用ロケットに搭乗し宇宙空間に逃れることでデスゲームからの逃避を試みた富豪が、見せしめとして、怪しげな実験室の檻の中でラブゾンビへと変えられる一部始終を。

 それはおぞましい映像だった。

 ついさっきまで富豪然とした態度で穏やかに自らの解放を訴えていた老人が、ぐずぐずに溶けた相貌へと変わり果て、うめき声を上げながら餌として与えられた初々しい中学生カップルに襲いかかり、二人分の肉塊を貪り食うのである。

 明らかに自身の胃どころか、身体よりも容積の大きい中学生の人体二人分を食しておきながら、しかしそのラブゾンビはさらなる生贄を求めて吠え立てていた。

 閑話休題。

 そんなこんなで要するに、このデスゲームにはタイムリミットがあるのだ。したがって、もしあなたに本当に愛する人がいるのなら、あなたはその相手がラブゾンビになってしまうことを為すすべもなく見守るか、あるいは告白によって自らの命と引き換えに相手を運命から救うかのどちらかを選ぶしかないのである。

 ちなみに今日はその告白デスゲームが始まって、まだ十日ほど。にもかかわらず、すでに世界人口が半分近くも失われてしまったのには理由があって。

 それは簡単な算数の問題だ。

 もしも人類がきれいに半々に分かれて、愛する人と愛される人が区別できたのなら、愛する人が死に、愛される人が生き残る。

 しかし実際の世界はそんなことはなく、たとえばある女性がじつは三股をかけており、彼女を愛する男が三人いたとしたら、その三人の男は三人とも彼女には自分しかいないと思い込み、不必要に告白して死に絶える。一方、とうの女性は本命の相手として別の男性を愛しており、告白して死に絶える。とうの別の男は、また別の女を……

 つまりはそんなふうに、片思いの連鎖が悪い方向に四散して、本当は誰からもさして愛されていないにもかかわらず、しかし誰かを一方的に愛してしまったような人々が次々に死んでいった。その結果が人口の四割減なのである。

 そもそも人類のうちの大半は恋愛適齢期から外れており、さらにその半分は愛する相手といわれればそれは家族を指す言葉であり、さらにそのうち半分はデスゲームのルールがいまいち上手く飲み込めていない。

 したがって、真っ先に死に絶えていったのは、まさに日頃から恋愛をゲームのように取り扱い、他人の感情を弄んでは弄ばれることを常としていたような人種であったのだとか。

 かようにしてデスゲームは序盤からデッドヒートを見せるが、されどそこからゲームはまったく進展を見せなくなり、やがて二ヶ月も経つ頃には、何事もなかったかのように人々は日常生活へと戻り始めてしまう。

 一年先にラブゾンビになってしまうと言われたところで、いまから慌てふためいたところでどうしようもなく、それはそれとして今日の晩ごはんの心配は誰かがしなくてはならない。

 つまるところ、恋愛というものが人類の悩みごとを占める割合は、そう大きくなかったということだと思われる。

 そして一年後。告白デスゲームの最後の日に、残された人々は、それぞれが大切だと思う相手の耳元にそっと愛を囁いて死んでいった。

 地球人口は三割まで減ってしまったけど、そのまま何事もなかったかのように、世界は今日も存続している。

 愛だの死だのは、結局その程度のことなのである。


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