なしひとへのお題は『優先すべきは全部君・一度でいいからキスをください・思いの中に囚われる』です。
君の目の前、いま進まんとするその道にしとしとと悲しげな雨が降り注いでいる。
青緑色に遮光されたコーラ瓶の内側。首のたけまで詰め込まれたぬるい雨水を、君は庭にこぼした。
生まれ変われたのならスミレの花になりたい。君の肺の内側に根を張り、君は咳をするたびに私の花びらを白いシーツの上に散らすのだ。
きっと君は僕の名前すら知るまい。私は君が名前を付けられたあの夜を覚えている。
たとえばそれはこんなおとぎ話だ。
君は暗く冷たい檻の中にながらく囚われている。その檻は高い石塔のはるか天辺だ。誰の指先も、声も、想いすらも届かない。
人はきっとその檻を自己愛と呼ぶ。
そして私は魔法で蛙に変えられたミミズクだ。
このお話のハッピーエンドは、いつかひょんなことで私の魔法が解けて、私は君の囚われた檻まで飛んで迎えに行く。そういうお話だ。
しかしいまこの現状と、その架空のハッピーエンドの間には、そら恐ろしいほどの断絶がある。
私は自らの魔法の解き方を知らないし、仮にミミズクに戻れたところで君の元まで飛びきれるかすらわからない。
君は私が、他でもない私であるのだと気付いてくれるだろうか?
いいや。架空と言うなら、すべては架空の話だ。
人は皆、いずれやがて死ぬ。
でも、いやだからこそ私は望まずにはいられない。
私が命からがら君のもとまでたどり着いたとき、君は僕の亡骸に口づけを交わしてくれるだろう。
その途端、世界から檻という檻が消え、雲の切れ間からは光が差し、君はようやく一人でなくなるのだ。
そしてきっと僕だけがこの世界に取り残される。
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