無人へのお題は『熱に埋もれる・猫のように甘やかしてあげる・ゆっくりところしてあげようか』です。
猫が核シェルターの建材として使われるようになってから三年が経つ。
というか、人類が核戦争をクラウドソーシングサービスを介して気軽に委託できるようになってから三年――のほうが比較的正しい記述かもしれない。
まぁ、そういうことになったのだ。
僕が中学を卒業した頃には、Uber Eatsを使用できる企業一覧に『傭兵』の項目がすでに追加されていたはずだし。
委託先は基本的に宇宙企業だ。
大体の大企業は水星の周回軌道から火星の周回軌道の間のどこかに位置し、時空代を払えない末端中小企業は木星の周回軌道から冥王星の周回軌道の狭間にひしめき合っている。
必然、民間から委託される小規模な核戦争も、近郊の惑星間に位置する大企業がほとんど独占している状態だったり。
何の話だっけ。
そう、猫シェルターの話だ。
核戦争が人気な理由についてはもちろん、見た目が派手だからという一点で。前近代的な地上戦、海上戦、空中戦に関しては最近めっきり人気がない。
ということはつまり、委託主(ここでは税金上の都合で個人事業主として扱われることのほうが多いけど、結局は僕や君と変わらない一介の民間人だ)としても、そのド派手な核戦争を爆音で胃の辺りがガクガクと揺さぶられるくらいの近場で見物したくなるのが必然というもの。
(脚注:ほら、石器時代に流行っていたとかいうラジオ番組なんて代物も、自分が好きな曲をかけられたっていうでしょ? たぶん原始人たちも、自分のリクエストがかかった瞬間、スピーカの前に押しかけたんじゃないかな)
そこで核シェルターの出番というわけで。
IK○Aやニ○リを中心とした家具販売チェーン店はこぞって宇宙に張ることのできる簡易タイプのテント型核シェルターを売り出していった。
最初は無骨で大量生産(あるいは使い回し)の代物たるコンテナ型から。やがてはフォードと同じ運命をたどるように、マルクスの予言し得なかった、デザインを消費する消費のための消費のための消費――(ようはメタリックなデザインのシェルターや、古風だったりモダンだったりの実用一辺倒じゃないタイプがたくさん出てきたって話)。
その一環。あるいはファイナル・アンサー。あるいは最終形態。
猫の革と骨を使った核シェルターが、京大発のスタートアップ企業で提案され、またたく間に一部のニッチな好事家たちの人気を大いに獲得したってわけ。
うへぇ。
ともあれ、そんな動物愛護団体やビーガンが憤死しそうな商品が流行った。いや、本当に流行ったのだ。流行ってしまったものは仕方がない。
ご存知の通り、核シェルターとは地上で最も忍耐力が試される場所だ。
いまどきは放射能除染技術も上がり、一時間程度で核戦争の跡地にも木が生え森が生え動物たちが歌い鳥が踊り神が降り立つアッパー系ドラッグの幻覚じみた光景が取り戻せるようになった上に、そもそも使用される放射性物質そのものが一日も経てば半減期を迎えるよう調整されている。
されど核戦争を好んで見物したがる(特に自分でその引き金を引きたがる)連中というのは、その……なんというか、あー、……いい意味で頭がおかしい。
……うん。ともかく、そんな感じで――
奴らは好んで、歴史というものに忠実であろうとするそうな。歴史というのはつまり核戦争の歴史だ。古くはキューバを崇拝し、近頃で言えば印パを崇拝する。そして何より毎日の習慣として、必ず福島の方角に向かって日に四度の礼拝を――いや、あれは戦争じゃないな。
で、奴らは核戦争が一度起これば、平気で数ヶ月という長期間を核シェルターの内側で過ごす。必要もなく、過ごしたがる。
結果、元からパーな頭がより悪い方のパーに傾く。
アッパーならまだしも、ダウナーはマジで、相当、キツいらしい。
ゆえに奴らは、自身の精神衛生水準をクリアに保つために、核シェルターのデザインに拘る。
ただでさえ狭い内側に腐葉土を盛り込んで花壇を作ってみたり、ネット回線を引いて天井に擬似的な空(時間に応じて夕暮れっぽくなったり夜っぽくなったりする)を映し出してみたり。
その果てに猫の毛皮を敷き詰めた絨毯・壁・天井 => kanpeki !@!
奴らの方程式は癒やしといえば猫という解を導く回路ができあがっていたらしく、その回路自体に僕は反論を覚えないけれど、一般的な全体論として倫理というものが足りていないんじゃないかと控えめに提言してみたり。
まぁ、別に勝手にすればいいんだけど。
各々が何をしようと、放っておくのが今流だ。
一々他人のやることに口を出す暇があれば、気に入らない奴の家の真ん前での核戦争でも注文したほうがまだ建設的だろうし。
しかし無論、いずれの時代にも頭のおかしいやつはいるし、それを凌ぐ、もっと頭のおかしいやつもいる。
仮にこの後者の連中を「彼ら」と呼ぶことにしよう。
……よしてくれ、「彼ら」のフルネームをここに書くと、またたく間にエゴサされて僕の家が明日の戦場になる。
とまれ、とまれ。「彼ら」は猫シェルター愛好者どもの動物『人権』意識の低さが大層お気に召さなかったらしく、アフリカからわざわざ呼び寄せた呪術師集団を使って、愛好者らの使用するシェルターのために殺された猫の怨霊を降ろした。らしい。
もちろんその怨霊(笑)とやらは健常者の目には見えないので、どうにも伝聞混じりのはっきりしない話になるのだけど。
ともあれ、降ろされた猫たちの呪いによって、売れに売れまくってた猫シェルターは核戦争の業火を防げなくなってしまった(ソニータイマーという説もあるが)。
結果として史上最低の悪(猫シェルター愛好者らのことである)は自ら太陽に近付きすぎたイカなんとかと似たような結末をたどり、宇宙の燃えカスとして、ハレー彗星の尾と同じ原理でやがては消え去ってしまったのだとか。
このくだらない話から引き出せる個人的な教訓というか、感想をどうしても述べろと言われるならば、一言。
たぶん次は野菜シェルターが流行ると思う。
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