なしひとへのお題は『温もりが消えていく・そんなもののために、・絶望が世界を覆い尽くしても』です。
お前がいくら怒鳴り散らそうとも、彼らはうちの店の前に居座ることをやめないだろう。
お前にはわかるまい。彼らが何に怒っているのかすらも。当然だ。そうでなければ、お前があんなことをするはずもないからな。
教えてやろう。昨夜、お前が蹴り殺したのは他でもない彼らの誇りそのものだったんだ。
ただの薄汚い猫だとでも思ったか?
ふむ。その見方はある一面では正しかったのかもしれない。
しかし別の一面を直視するなら、あの猫は彼らにとっての神だったのだよ。
一言一句違わず、言葉通りの意味だ。
彼らはあの猫を崇拝していた。
だから彼らは怒っている。自らの子どもが股裂きにされたのと等しいほどに怒っている。
馬鹿げていると思うか?
……。
まぁ落ち着けよ。そうがなり立てるな。もちろんこの国の法律に照らし合わせるなら、お前の言ってることのほうが正しいだろう。
あの老猫は、店先から商品を盗んで逃げようとした。だから殺したというのだろう?
そしてお前は、彼らの神を店の裏のゴミバケツに放り込んだ。
お前の中ではあの猫の話はそれまでだったのかもしれない。
しかしこの話には続きがある。
今朝、まだ陽も昇らない早朝のことだ。神が無残な姿で朽ち果てているのを見つけた彼らは、うやうやしくもそのゴミ同然の死体を拾い上げた。
泣いてなんかいなかったよ。泣くには、彼らの涙はとうの昔に尽き果てていた。
彼らは何年も、何十年も、何百年も、その猫を崇め続けてきた。
彼らはその猫のために起き、その猫のために働き、その猫のために祈ってきた。
……自分がなんてとんでもないことをしたのか、わずかなりともわかってきたか?
わからないだろう。お前にわかるはずがない。
なら、さっきのセリフを言ってみろ。彼らの目の前でだ。
お前には猫を殺す権利があるのだと。信仰など知ったことか。薄汚い連中が、薄汚い猫を殺されたくらいでぎゃあぎゃあ喚くなと。
彼らの目を奥底まで覗き込みながら言ってみろ。
さぁ、言え。
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