なしひとへのお題は『腕の内側に飛び込んだ・君には分かるまい・心はずっと僕のもの』です。
ぜんぶで7人いた姉は全員、ヘビイチゴの季節に自殺してしまった。
今日は最後の姉の葬式で、僕はこうしてついに一人っ子になってしまった。
両親なんかは憔悴しきっていて、僕のことなんか気にかけてられないとでも言いたげに、これから土を被せられる棺の横で地面を見つめていた。
いや、あるいはどうせ僕も自殺するのだろうと思われているのかもしれない。
それは葬式に集った親戚連中や村の人達と同じように。
幽霊でも見つめているかのような視線だった。
姉たちがどうして自ら命を断ってしまったのか、誰にも説明を付けることはできなかった。
それはもちろん、血を分けた僕にも。あるいはもしかしたら、彼女たち自身にも。
ただしひとつ確かに言えることは、最後に死んだ姉は自殺する前日までとても優しかったということだ。
何かの拍子に、おいで、と声をかけられ。彼女を抱きしめた僕は、彼女の腕の内側で予想外なほどに強く抱きしめられて戸惑った。
いまならわかるけど、彼女の腕はきっとこう言っていた。
お前も私たちの後を追って自殺してくれるわよね、と。
最後の姉の葬式は曇り空だった。ごっちゃになってよくわからないけど、たしか他の姉の葬式もそうだった気がする。
別に彼女たちの死を神様も悲しんでるだなんて話じゃなくて。
ヘビイチゴの季節は雨が多い。たぶんそれだけだ。
7人もいた姉たちが全員死んでしまった理由も、意外とそんなところにあるのかもしれないと思った。
そして。もし僕もその話に組み込まれることを受け入れるなら、近いうちに死んでしまうのだろう。
そのようなあらすじを村の人たちも、親戚たちも、両親も、死んだ姉たちもきっと望んでいる。
願い下げだ。
僕は君たちの敷くあらすじには沿わない。
僕はどれだけ長いときが過ぎようとも、姉たちと違って自殺しない。
僕はきっと、7人の姉に取り残され死にそびれた平凡な男として、老いていくのだろう。
これはきっと、それだけの話だ。
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