なしひとの書く小説のお題は、『春』『幽霊』『宇宙戦争』です。

 人間以外の肉を食べたのはいつぶりだろう。

 禁欲主義も度を越すと病気だと思う。

 死んだ女の子たちが本当の意味で死ななくなってから――春からだから、かれこれ九ヶ月が経つ。

 なにか正式な長ったらしい名前も付けられたはずだけど、私たち一般人の間では、冗談混じりに『ゾンビ病』と、その病気は呼ばれた。


 ① まず発熱。

 ② 次に窒息。

 ③ &死。

 ④ そののち復活(ただし最後のステップは女子限定)。


 もちろん死人は死人だよ。腐ってるしイカれてるし昼夜なくそこらを呻きながら歩き回る。

 正直、言葉が通じるなら誠心誠意焼却炉に頭突っ込みで成仏して欲しい旨を遠回しにお伝えしたいところ。

 

 おい、お前が言えよ。

 いや、本当に。マジ勘弁。近寄りたくないし。

 はっきり言って邪魔。しかもなんで渋谷の交差点でスクランブルしてるのよ、あいつら。

 もしやハロウィン気取りなんじゃないの。

 ……。

 ごめんて。

 

 国連は困った挙げ句、人類の希望を食欲にかけた。

 つまり、死人の肉は食べてもオッケーという法律を。

 通しちゃったものは仕方ないので、ここ二週間。スーパーに並ぶのは腐った人肉ばかり。

 誰がそんなもの食うかって思うでしょ? 私も思う。

 でも国からの報奨金が。


 1kg/10万円。


 というわけでパンデミックの余波に仕事を失った私は、今日も今日とて人類の残飯処理。

 カレーかシチューにすると臭みが抑えられて、牛乳でギリ流し込める感じ。

 たまに飲み込んでる最中でもひくひく動くけど。


 狂ってるでしょ?

 たまには鶏とか豚とか、あるいは高望みが許されるなら牛が食べたい。

 でも元々この世界はこのくらい狂ってた気がするし、狂ってる中でも人肉(腐)はまだマシなほうかも。


 知ってるかな。夏頃に南極に打ち立てられた独立政権Aと独立政権Bの内戦は、とうとう宇宙戦争に突入するそうだ。

 どうも電波の帯域の問題で、南極の氷の上は銃弾とミサイルが予定表ぎっしりに飛び交うので、いっそ宇宙で和平交渉(という名の経済制裁)を議論するのだとか。

 

 宇宙といえば、ゾンビの女の子たちを宇宙に放り出したらどうなるんだろう。

 しぼむのかな。膨らむのかな。

 私が食べる量が減るなら、NASAでもJAXAでも、好きなだけロケットに引っかけて打ち上げてしまえばいいのに。

 とか言ってたら、マジで打ち上げることに決めちゃったらしい。

 まったく。

 

 というわけで、私は明日からゾンビ廃棄係にジョブチェンジ。

 ゾンビたちをトン単位で打ち上げるので、私は宇宙服を着てロケットとゾンビたちを引っ付けてる縄をぶちぶち切る仕事。

 んでもって、いま食べてる高級和牛弁当が国からの報酬。


 一食(三千円)。


 一回の往復で5tのゾンビを捨ててくることになってるから、むしろ報酬としては減ってる気が。

 まぁいいけど。春にはこのゾンビ病に対するワクチンができるらしいし。

 だから精々それまでは生き延びて、私自身がゾンビにならないよう気を付けないと。

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