お仕立て グローブ その2
トントン
またまたキャベツを切る。
トマト、ジャガイモ、昨日の生ハムの脂身部分と共に鍋に入れると、かまどに鍋を入れる。
ついでに小麦粉と油、砂糖、塩を混ぜて発酵させた生地を打ち粉を撒いた台の上で薄く伸ばす。
トマトソースにオリーブ、またまた生ハムを細かく切ったもの、チーズを乗せて、かまどの鍋のとなりにおいた。
しばらくたつとふわりパンとチーズの香りがしてくる。
「お腹すいた!」
匂い釣られてリトがやって来た。
「リト、もうちょい待ってて。まだ焼き途中だし、最後にバジル乗せたいの」
「じゃあ手伝うよ」
隣に来たリトはまだ私の胸の辺りまでの身長しかない。
黒い短く切った髪が似合ってる。
「それじゃあ、バジル洗って千切っておいて。」
リトとのんびりしちゃうと、焦がしちゃうからここは迅速に。リトに声をかけ、かまどを開けると、ピザの香りがキッチンに立ち込めた。
私も思わずお腹がなりそうになる。
今日のお昼は私とリトしかいない。お姉ちゃんはカイさんと一緒に出掛けてしまったのだ。
二人だけだから簡単なものを、と思ってたんだけど、ついリトの大好物にしてしまった。
ピザを取り出すと、チーズはとろとろ、所々焦げ色がついている。
お皿に盛り付ける。
「リト、お願いね」
リトが洗ったバジルをペーパータオルで水気をとり、ぱりぱり破ってピザの上にのせる。
その間に私は鍋も取り出して、鍋つかみのまま蓋を開ける。湯気が目の前を覆う。
今日はミネストローネ。生ハムの脂身で塩気は入っているが、最後に味の調節をし、おたまから小皿にスープを入れ、味見する。
うむ、ダシがとれて良い出来。
「リト、味見てくれる?」
再びスープを小皿に入れて、リトに手渡す。
「うん、味ちょうど良いよ」
「コショウとかいい?」
「俺辛いのあんまり好きじゃない」
しってますけどね。自分のスープ皿に予めコショウを挽き、入れる。それからスープを入れて最後にまたコショウ。
私は辛党なのです。正確には刺激物好き。
リトの分はコショウを入れずに盛り付ける。
「じゃあ俺、ピザと取り皿持ってくよ。」
手際よくピザカッターでピザを切ったリトは片手でピザ、逆の手でお皿を持っていった。
私もスープ皿を持ってリビングに向かう。途中でリトがスープ皿を取りに来ると、
「姉ちゃんはスプーンとフォーク頼むよ」
うん、リトは本当によく働くわ~。きっと良い旦那になれるよ!
キッチンに戻り、スプーンとフォークをとったところで店側のドアチャイムがなった。
急ぎリビングに行くとリトに手渡す。
「サラがお客様紹介してくれるって、話してたから、きっとそのお客様だわ。ちょっとお話してくるから待ってて」
リトに話すと小走りで店に向かった。
店に来ていた来客者の風貌を見て、思わずなんて奇天烈な…と出そうだった。
とんがり帽子からは金色の髪が流れ落ち、顔にかけたメガネは回りになにか金属がごちゃごちゃついている。
首もとにはストールで顔まで隠れてる。
そのしたの黒と紺のワンピースは逆に短く、長くて細い足はタイツで覆われていた。
「宝石商のサラさんから紹介していただきました、イズミです。あなたがリゼさん?」
にっこり笑った口の動きだけど、メガネが反射して目が良く見えませーん。
「あ、はい。そうです」
「私の国、女性は肌を出してはいけないのです。そのため、肌を守るグローブお願いします。」
少しイントネーション違うけど流暢!
「そんな風習があるのですね。わかりました、早速ですけど計測させていただきますね!」
近くのトルソーにかけていたメジャーを手にし、イズミさんを椅子に案内する。
ぐうぅぅー、とお腹がなりそうだけど我慢だ、私!
手早く腕の付けね、手首の回りの長さをはかり、肩から手首までの長さも測る。
測っている最中、イズミさんが話す。
「私の国よりもこの国、少し気温が高くて息苦しいですね。気分だけでも涼しくなりたいものです」
肌を守る…涼を求めたい…
考えながらも計測を済ませる。
次に生地を選んでもらおうとカタログを出すと、イズミさんは席をたってしまった。
「サラさんから腕の良い仕立て屋さん、聞いてます。後お任せします」
そういうと、私の手に袋を置き、握らせる。そしてそのまま店から出ていってしまった。
静かにイズミさんは去っていき、ドアチャイムの音だけが店に響き渡った。
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