003 第3皇子の婚活事情

ガルヴァッサ帝国、シルヴァレッタ・ウィル・リキート・ガルヴァッサ。

第3皇子をやっている。



第3位の皇位継承権を持つが、ただのお飾りだ。

何故なら、俺の母が側妃で権力がないに等しい。


もとは正妃の側仕として、侯爵家からの行儀見習いとして出仕してた母。

正妃の事を「お姉さま」と慕い、マスコットのように可愛がってもらったらしい。


そんな行儀見習いに手をだしたのが当時の皇帝。

大泣きする行儀見習いと、皇帝を叱る正妃(・・)の姿が多数目撃されたとか。

おかげで行儀見習いである母は婚約者と破談となり、しかも妊娠する有り様。その後、正妃(・・)の後押しで側妃となったらしい。


同じ皇子の中だけ、俺の立場はない。俺自身は正妃の事も母として慕っているし、異母兄妹達ととの関係も良好だ。




そんな俺の婚活事情を書こうか。

妻となる貴族への婿入りの場合、相手の家の爵位を継ぐ。もしくは嫁を貰い一代限りの名誉貴族となるかだ。そして何より、下手に野心ある貴族家とは婚姻できない。いつの間にか旗頭とされ、内紛を起こすわけもいかないからね。


そうなると中々婚姻相手を絞れない。そんな事を考えていたのが15歳の頃。



「なぁ、ソシエッタ。もう何年かしたら結婚してくれないか」


従姉妹であり、侯爵家の娘である10歳の少女にそう声をかけた。


「シルヴァレッタお兄様、情勢をお考えなさいませ」


5歳年下の従姉妹である少女に大変しかられた。


「いいですか、私とシルヴァレッタお兄様が婚姻を結んでもまったく無意味です。皇族派である私の侯爵家も、皇族であるお兄様も、次期皇帝であるガスターシュ様にも、メリットがございません」


どうやら俺は、1代限りの名誉貴族とし家を起こし、中立派の有力貴族の娘と婚姻するのが良いらしい。

当時はこの従姉妹である少女は聡いなーとしか思わなかったが、時間が経過すると背景がわかってくる。


俺の異母兄には、次期皇帝であるガスターシュ皇太子、内政を担うヴィグナーツ副宰相がいる。

俺は皇族として軍に入隊し、作戦司令室付けとして所属の軍人となった。





ガスターシュ皇太子(異母兄上)は結婚し、ヴィグナーツ異母兄上も婚約者がいる。

20歳となった俺にはまだ婚約者がいない。そんなある日。


従姉妹であるソシエッタが宮殿に遊びに来た。

ガスターシュ皇太子(異母兄上)とも一緒にお茶会につきあった。


「そういえば、シルヴァレッタお兄様。婚約者様はお決まりになって?」


従姉妹ソシエッタからの質問が飛ぶ。まだ決まってないからなー。


「うーん美人なご令嬢が良いのだけど、なかなか選べなくて」


従姉妹ソシエッタの視線が突き刺さる。

そのまま俺の異母兄上の方へ視線を向ける彼女。我が国の皇太子(異母兄上)様は、首をそっと振るのであった。


「ガスターシュ様、シルヴァレッタお兄様がどれだけ頑張ろうが、皇帝の座に就けそうに無い事はおわかりになりませんか」


「いや、重々承知してるよ」


即断でコメントを返す皇太子(異母兄上)様。

確かに貴族情勢とか、国内統制が得意でないのは理解してるが、その言い方は酷いんじゃないか。


「ガスターシュ様、お兄様にはエスタロッテ伯のシャルトッテさんとくっついて貰いましょう」


何故僕の婚姻を従姉妹の君が決めるのだね。


「エスタロッテ伯ならば妥当だろうが、シャルトッテ嬢は少し年上過ぎないか?」


ため息をつきながら俺を見る2人。俺の意見は?


「シルヴァレッタお兄様は見た目が麗しければどなたでも良いのです。シャルトッテさんが少しごねるかもしれませんが、エスタロッテ伯を通して外堀を埋めましょう。伯爵も、妹の婚姻が皇族であれば反対しませんわ」


目の前で話が進んで行く俺の婚姻。


「俺の意見は?」


「黙って見てたまえ!」

「お黙りになって!」


2人から怒られた。僕を無視して、僕の婚姻と国家統制が進んで行くよ。

仕方なしに、お茶を楽しむ事にする。


「私はシルヴァレッタの婚姻をロイゾルド王国との国境近くの有力貴族と考えていたが、国境沿いはどうするのだ?」


「私が嫁ぎますわ」


皇太子(異母兄上)様もお茶を嗜みながら、考えているようだ。


「どこの貴族家だ?」


「ソルダージャ男爵家」


ソルダージャ男爵家ってどこの領地だったか。ロイゾルド王国との国境近くといっているから、西の方なのだろう。そうか、幼いと思ってた従姉妹も婚姻かーなどと考えてしまう。


「君が嫁ぐには爵位が低すぎないか?」


「まずは1代限りの名誉貴族として叙勲するのですわ」


なるほど、と考え込む皇太子(異母兄上)様。

ソルダージャ男爵家って思い出した。あの勇敢な次期男爵当主のいる領地じゃないか。


「あそこには、勇敢な次期男爵当主がいたね。彼の戦術手腕は僕でも認めるよ」


僕の言葉に反応する2人。


「だけど残念なのが、圧倒的に砦の質が悪すぎる点だよ。現状だとロイゾルド王国の本格的な侵攻があると厳しいかもねー」


「それは君が全体指揮を行ってもか?」


皇太子(異母兄上)様に質問される。領地を完全に網羅してるわけでないから、難しいだろうね。


「逆にソルダージャ男爵領の事を理解して無いから、俺よりも彼のが適任じゃないかな」


「ガスターシュ皇太子様、投資が必要ですわ」


「一時的に名誉子爵として、それから実績をあげさせるか。対ロイゾルド王国の前線とするならば、国庫からも出しやすいな。」


僕の目の前で国家戦略が話をされている。

従姉妹のソシエッタが、皇太子(異母兄)と同等な戦略を語ってるなんてすごいなーとばかり気にしていた。



こうして俺は、相手の顔を知らないままエスタロッテ伯爵の妹のシャルトッテ嬢と婚約を結ぶのであった。


「初めましてシルヴァレッタ様」


初めてのお見合いであったシャルトッテ嬢は、僕の母より年上の美女であった。

え、この人と結婚するの?いや、美人で気立てのいい女性だから嬉しいけどさ。




こうして俺は、政略結婚で美人で気立てのよいお嬢さんをお嫁さんに迎えるのだった。

婚約中、僕の妻となるシャルトッテ嬢に結婚が嫌でないか聞いてみた。


「シルヴァレッタ皇子様は格好良いのですもの。それに指揮官として有名な活躍しておりますわ」


美人さんにそう言われるのも嫌でない。

第3皇子としての俺の婚活事情は、俺の意思とあまり関わりなく決まった。

きっと皇族や、貴族位にいる婚活なぞ、こんなものであろう。



そして15歳になった従姉妹のソシエッタもお見合いするらしい。

男爵家次期当主である彼の事はよく知っている。

勇敢で戦に強く、男気のある気のいいやつだ。彼ならば、きっと従姉妹を幸せにしてくれるだろう。

願わくば、2人が結ばれる事を。


Fin

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