002 男爵家長女の婚活事情

ガルヴァッサ帝国、ソルダージャ家長女、ステフレンシア・フィン・ソルダージャ。

これが私の名前よ。


2歳下に、次期当主(予定)であるルドルフという弟がいるの。

貴族家の女性にとって何が大事かご存知?

お家の発展と、自身の生活環境よ!



改めて言うわ。自身の生活環境よ!!



ごほん、もちろんお家の発展も大事よ。

私のソルダージャ領はどうかしら。主な産業は農業ね。


ただ、それだけの領地。

幸いにして、対隣国対策の為に様々な砦が存在する。

我が領地の兵士は勿論の事、お国の兵士たちが滞在し、彼らが落とす資金が主産業よ。


とある砦の指揮官(55歳男性)に話を伺うと、ソルダージャ男爵領は兵士にとって過ごしやすい領地らしい。

農業が主産業であって、メシは旨い。隣領地のヘルダーシュ伯爵領産のうまい酒もたくさんある。

前線でケガしやすいというデメリットもあるが、平民兵士としてはウマイ飯・酒、美人の多い街並み、そして国から安定される給料。素晴らしい限りだという。



そうなのかしら。

私はそうとも思えないのだけど、騎士爵出身であり、名誉伯爵(1代限りの伯爵位)である指揮官が言っていたわ。私から言えば、この領地に未来が望めない。男と女の視点の違いかしら。


隣国との最前線であり、いつ領地が減るかもしれない。

産業は農業しかなく、二次産業は兵士たちを楽しませる食事・酒・接待よ。



領土が減った瞬間、貴族位なんて吹き飛ぶわ。

私は、この領地と違った安定した領地の当主と結婚したいの。

幸いに弟は、姉さんの結婚のため、僕も協力するよと言ってくれている。



女視点では、この男ないわーな弟だけど、姉視点では頼りになる弟よ?

家族の協力に感謝するわ。



さて、ここからは私の婚活の話よ。

精一杯のおめかしをして、なるべく上の爵位の男性とお近づきになるの。

これはそんな1つの話だわ。



「そこのケバイ女。帰れ」


とある侯爵様に近づいた瞬間、この言葉よ。ひどくない?

異世界夢物語の日本でいう、4mも離れているのよ?

7m離れて様々な女性陣が円でその侯爵様を囲っているのだけど。


たまたま通り過ぎた私にそんな言葉を話す男性ってどうなのかしら。

私的には、この言葉を放ったヘンター次期侯爵こそ帰れ!ですわ。




やはり実家の実力がないと18歳の私とは言え、婚活は難しいわ。

有力な領地をもつ、同位の男爵の娘さん達は次々に婚約しているもの。

男性の領地の地力もそうだけど、女性の実家の領地の地力も大事なのね。



ガルヴァッサ帝国には700もある男爵領があるわ。

侯爵やら公爵家にしてみたら、多数いる女性の中で、私も泡沫の1つかもしれないわ。




ヘルダーシュ伯爵夫人と私、仲が良いの。

ヘルダーシュ伯爵家のお酒を、我が領地はたくさん買い込んでるの。


そんなヘルダーシュ伯爵家主催で彼と出会ったわ。

そんな彼を最初に見つけたのは、男としてナイワーでもある弟よ。



彼を最初見た時、子爵家の次期当主と思わなかったもの。

悪く言えば、次期男爵位と同等な弟の悪友かしら。



「姉さん紹介するよ、彼はドルドファン・ウォル・フォンデイッタ。僕と仲良くしてくれている」


そういって紹介くれた彼は、ドルドファンという豪快な名前に対して線の細い男性だったの。

婚活をしている中で、1目見て有り・無しを決めていた私にとって、何も考えなかったのは彼が初めて。

正直に言えば、選択肢以前の存在だったのよ。


「初めまして、ドルドファン様。弟がいろいろご迷惑をおかけしてませんか?」


ヘルダーシュ伯爵夫人から教わった笑みを浮かべてカーテシー。

私はお姉さんなので、弟のメンツ位はたててあげるわよ。


「はじめまして、ステフレンシア嬢。ルドルフには色々助けてもらっている」


意外と彼は紳士だったわ。





先日会ったドルドファン様からたくさんのお便りが届く。

恐らく弟から聞きつけたのであろう、スミレのお花と共に。


この反応に弟もビックリしていた。


「僕がいうのもなんだけど、あいつは女嫌いで・・・。女が近寄るだけで拒絶するんだ」


これは弟の言葉。なぜ格下であり、某侯爵からはケバイ女帰れ言われる私が、次期子爵様から沢山のお手紙を頂くのかしら。



ドルドファン様とは、観劇を見に行ったり、美味しいご飯を食べたり、弟と共に領地にご訪問したり。

様々に仲良くなったわ。



「ステーシー、よくあんな難解なドルドファン様に気に入られたのね」


同じような男爵位をもつ婚活仲間である女性陣とのお茶会。


「私は何もやってないわ」


「えー、うそーーー!。ドルドファン様、ステーシーにゾッコンじゃないですか」


同位男爵の女性陣達はキャピキャピしているのねと、思ってしまう。

うーん、本当に彼に対して何もアピールしてないのだけどなー。


「本当に、彼に対して何もアピールしてないのよ。たまたま弟の紹介で知り合っただけで・・・」


彼女達の目つきがかわった。


「ちょっと、そこ詳しく!」


私は、ドルドファン様との出会いを洗いざらい話す事となったの。





結婚って、どんなものかしら。

ヘンター侯爵のような格好いい方と、結婚するものだと幼少の頃は思ってたわ。

1目あわした瞬間にナイワーに降格したけども。



ある時、彼に言われたの。


「結婚してほしい!」


正直いえば、ドルドファン様とは弟と同じように交流を結んでいたの。

ダメなものはダメ。私は気に入らないわ。でも弟と同じように、彼の素晴らしい部分は褒めてあげたり。

悪い人じゃないのよ?でも、ときめく相手でもなかったわ。


「考えさせてほしい」


そういった瞬間、彼の表情がガックリしていた。

いけない、彼の笑みが好きだった私は思わずこんな言葉を返していたわ。


「私は、ソルダージャ家の娘よ。当主や次期当主の許可なく、自身で結婚を決めれないわ」


彼の表情に熱意が籠ったの!

「それならば、直接許可をもらいに行く!」という彼をなんとか押しとどめたわ。



彼からプロポーズされた事を家族に報告すると、


「良くやったステーシー!」


そう喜ぶ、父と母。

弟は逆にびっくりして、


「本当にあいつでいいの?姉さんも考えまとまってないじゃない?」


と共感してくれた弟。

始めて弟の男気を感じた気がするわ。


我が領地視点でみれば、フォンディッタ家とは是非とも関係を結びたいお家だったらしい。

翌日、突発的に訪問し、父に私との婚姻を望んだ彼は、領地の発展も心意気に叫んでくれた。

父・母はこの婚姻に大満足だ。


私自身はどうかしら。

結婚後の環境でいえば、安定した領地、実家より裕福な環境、私にいろいろアピールしてくれる彼。

どれも素晴らしいものかもしれない。


でも何故だろうか。

「私自身」は、積極的になれず、受け身になっているのよ。

他の子爵やら、伯爵の次期当主の方々にあれだけアピールしてた私が、彼にだけではアピールしなかったの。


どちらかというと、アピールしなかったが正解かもしれない。




弟は、そんな私を把握してくれたのか、アドバイスをくれた。


「あいつは悪い奴じゃない。結婚後の生活としてみれば、この領地にいるより善いと思う。姉さんの好みから大分外れてるけどね」


失礼な!

と、思ったけど弟のコメントは正解だったかもしれない。

「私の理想」の旦那さまと外れているのよ。


領地、安定性、実家領地への影響、これらは最大限に良い環境だわ。

でも、「彼」を見るとどうしても決められなかったの。




彼のフォンデイッタ家と、私のソルダージャ家。婚姻が決定したけど、私の心は決まってない。政略結婚ってこんなものかしら。

婚姻式まで1週間とせまった中。家族に相談したの。


「彼とやっていけるか不安なの。政略結婚として嫁ぐのは有りだと理解してるわ。でも、どうしても・・・」


そんな私の不安を取り払ったのは、男としてナイワーである弟であった。


「ステファ・・」


「姉さん!」


父が怒りの声を上げる前に、大きく声をあげる弟。


「ソルダージャ次期当主として命じる。フォンデイッタ家に嫁いで、ソルダージャ家との関係を深めよ!」


弟の目は真剣だ。

父は、弟の迫力に声をおろしてしまった。


今思えば、平民でいうマリッジブルーだったのかもしれない。


「もう1つ。その不安はドルドファンにも伝えておく。次期当主として、明日はドルドファンと終日過ごす事を命じるよ」


そう笑みを浮かべる弟はたくましかった。

わかったわよ、「政略結婚」として彼に嫁ぐわ。





こうして男爵家でありながら、子爵家に嫁いだ私がいる。

現在ではフォンデイッタ家当主となった彼との幸せな生活を過ごしているわ。

弟の次期当主命令は、すごく助かったの。本当、この結婚大丈夫なのか、ものすごく不安だった。そんな状況でも、私は貴族家の娘よ。

嫁げと言われれば、最終的には嫁ぐしかないわ。



そんなマリッジブルーを解消してくれた弟には感謝しかない。

表立って活動はしてないけど、社交界では弟のすごさをアピールする。彼との結婚のために、これだけ力うってくれた弟には良いお嫁さんを迎えてほしい。



さぁ、次はどんな女性を弟とお見合いさせようかしら。

お見合い相手がいないと嘆いている、伯爵家のシャルトッテ様と段取りをさせよう。



「ステーシーはブラコンだね」


彼、私の旦那様であるドルドファン様に言われる。


「そんな事ないわよ。私は旦那さまとの結婚で後押ししてくれた人へのお礼だもの」


そういうと、旦那様はにこやかに笑ってくれる。


「彼も災難だね。良い領地に住んでいるにも関わらず、見向きされないもの」


私の実家、そんな良い領地だったかしら?


「そうなの?」



彼から、私の実家の優位性を散々に説明された。

うーん、貴族女性視点ではこれに気づくのは難しいのかもしれない。

私の婚活状況のお話は、これにて終了するわ。


次からは、夫婦生活の報告を・・・・。

え、いらない?


わかったわ。

ところで、先日会ったソシエッタさんはどうなの?色々聞かせて頂戴。



これに対して、弟からの手紙はなかった。

それでも、相談してほしいと泣きついてくる弟の様子が目に浮かぶ。その時は、旦那様と一緒に精一杯のフォローをしてあげるわ。



Fin

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