貂崖訓練官の祓穢組解説
幕間― 祓穢組とその説明
カンカンカン…と不思議な靴音が近づいてくる。前長所≪まえながどころ≫(祓穢組に入る為の訓練場。日本における退魔の実技から警察との連携など、様々なことをここで学ぶ)で最も変人と名高い訓練官、貂崖≪てんがい≫だとすぐにわかる。この大きめの教室のどこにいてもわかる、鉄の靴底がコンクリートを踏み鳴らす音だ。
「よーし、皆さん席についてますな。では始めさせてもらうですよ。」
引き戸を開けると、いつも通り不思議な格好をした貂崖が現れた。今日の服装は袴にポロシャツ、その上に布切れがたくさんはっつけられた上着という、奇抜という言葉すら生ぬるい格好だ。
ペンを持ち、耳を澄ませる。
「皆さんが入ろうとしている祓穢組は、一言でいえば化け物退治の専門業!」
「全国50の地区に屯所があって、それらを大体4つの地方でまとめる地方局があります。その上に本部が成り立ってるといった感じですな。」
独特な上着についたヒラヒラをはためかせながら話を続ける。
「まぁ力関係的には屯所は交番、地方局は警察署、本部は警視庁ってなもんです。それぞれのトップは、地区長、局長、綯縄≪とうじょう≫ってなってます。綯縄だけちょっと特殊で、称号と、皆さんにもついてる公名が同じものになってます。気軽く『とーちゃん』とか呼んじゃあダメですぜ。」
と気軽に口にする。上層部のスパイでもいたらどうするつもりなんだろうか。冷や汗が背筋を這う。
「あれ、ウケない?おっかしいなぁ…去年は爆笑の渦だったのに。」
毎年やってるのか…。命知らずとは聞いていたが…。
「んじゃあ次に“所”のお話。昔々に名付けられて、今もそのままだから覚えにくいよ!まぁ一気に覚える必要ないけど。」
黒板に四角をいくつか描き、そこに名前を書き入れていく。
「ふぃ…、じゃあ説明ね。まず構図所、作戦立案とかそんなん。こいつと仲いいのが集聞所、情報収集とかやるところ。あ、こいつらおっかねー部隊持ってるから、あんまり過激な発言してるとしょっ引かれちゃうよ。説教なげーんだよなぁ…。」
間違いなく何度かしょっ引かれている。よく訓練官などできるものだ…。
「ここ人事所。君らの配属だの左遷だの昇格だの降格だの決めるとこ。ここと仲いいのは勘定所。名前通り。んでここが官談所、外交とか退魔装備の買い付けするところね。慰癒所は医療系で、治療なんかをする組織だね。ここら辺が主要な組織かな~。」
ひとつ疑問が浮かんだので、恐る恐る手をあげる。
「ほいそこの!…あぁ、分入措置した時の魂の保管ね。それは集聞所でやってるよ。彼らから情報収集できることもあるし、サイズが小さいだけに、管理人も2人いれば十分だしね。ちなみに、管理は予備役の人がやってて、魂は局に保管されてる。」
ありがとうございます、と告げて再びペンを持つ。
「あ、あと捕縄した時は一時的に警察の留置所に置かれるよ。1~2日以内にまた別の処置して終わり。局の牢屋で預かるなり、登録して釈放するなり。」
「はい!捕縄した時に警察においておくのは大丈夫なんですか!」
若手の中でもとりわけ威勢のいい男が質問する。確かに、変身なり体形変異なりですぐ逃げられそうなものだが…
「警察が人に使うものとは別に、祓穢組は祓穢組で特殊な縄を持ってる。もともと陰陽師系の人が使ってた呪術の編み込まれた縄だね。こいつでえいやとしばると、彼らは変身も体形変異もできない。これで安心ってなわけ!まぁ穢者だと知らずに普通に逮捕しちゃったらアウトなんだけどさ。」
ふむ、それ用の道具はあるのか。警察組織にも配ればいいのでは?
「でもあの縄高いし、ちゃんと知識のある人が持ってないとうまく扱えないんだよね。う~ん、むつかしい!」
それもそうか。納得した。
「ちょっと話脱線した、戻そう。」
「さっき言った“所”に所属する人たちは、必要に応じてそれぞれの屯所にも1人から2人配属されるのね。屯所あたり15人±5人で、地区長1人、会計係1人、作戦立案係1人、情報係1人か2人、医療係1人か2人!祓穢士それ以外って感じの構成。あ、場合によっては地区長補佐が加わるよ。実質懲罰席だけど!アハハ!」
貂崖はよくわからないタイミングで笑う。いや、本当にわからない…。
「大体情報係、集聞所の人が情報を基に嘆書作って、祓穢士に渡すの。」
フムフム
「まあ屯所の情報係は皆速報性だけ重視してるから、あんまり精度良くないよ!調査とか祓穢士に丸投げ!本部はもっとかっちりしたデータもってるらしいけどね~。」
オイオイ…
「まぁ例えるならだけど、屯所の情報係は『結果までしか書かれてない査読なし論文』で、本部の集聞所は『超有名学術雑誌の査読通った論文』みたいな感じ。アレ?伝わってる?」
まぁ…言いたいことはわかるが、大学に行っていないので体感的には分かり辛い。
「じゃあSNSの速報と、新聞の記事…ってたとえならわかるかいな?」
まぁなんとなく。
「そういうこと。まあしょうがない節はあるさ。とっとと捕まえないと大変なことになるしね。とりあえず今のところ大損害は起きてないし、いいんじゃないこのままで。」
適当だな…とは思うが、実際隠しきれないレベルの事件は起こっていないので問題ないのだろうとも思う。
「…とまぁこんな感じ!組織についての座学終了!月末テストだから!覚えといてよ~。後の時間自習!じゃ!」
最期まで適当な先生だ…。
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