三十六話 vsガレクシャス

 地下道にできた横穴の陰。壁にもたれかかるようにして、フウカは座らされていた。

 ガレクシャスは自軍の増援と、フウカへの見張りにそれぞれ戦力を分けてから、一人で工場地帯へ向かった。

 フウカは人質として利用価値があるのか、まだこうして囚われている。

 破滅的な予感がよぎる。このまま座しているわけにはいかない。早く脱出して、ガレクシャスを止めなければ。

 見張りの数は四人。銃器を手に武装しており、無手のフウカが突破するのは至難だろう。

 それ以前に、後ろ手に手錠が嵌められている。これをどうにかしなければ、まずもって立ち上がる事すらままならない。

 フウカは見張り達の足下に落ちている、自分のバックパックへ目を留めた。唇をほとんど動かさず、囁くような小声を発する。


「……風末、起動」


 途端、バックパックからかすかな電子音が鳴り、緑のライトがカバー越しに一瞬光った。


「なんだ、お前。今何か言ったか?」


 見張りの一人が武器を向けて来たので、フウカは何食わぬ顔で首を振って否定する。

 その間にも、バックパックの中では小動物が身動きするかのように、ごそごそと形が盛り上がり。

 内部から隙間を抜けるようにして、筐体下部に節足動物めいた四本の足を突き出した風末が、瓦礫などの物陰に隠れながら、フウカの腰の近くまでやって来ていた。


「切断モード」


 音声認識へ命令するためもう一度呟くと、また見張りに睨まれたが、フウカの背中側へ回った風末からは、細い一本のアームが伸びていた。

 アーム先端には鋭利な丸ノコが取り付けられており、これまたわずかな風切り音を立てて回転を始め、フウカを拘束する手錠の鎖部分を、高速で切断し出したのだった。


「……おい、どうやら第三防衛線も突破されたらしい。連中、ここまで来るぞ」


 見張りの一人が、トランシーバーの報告を聞きながら言う。


「どうする、俺達も行くか」

「ガレクシャス様からはこいつを人質に使って良いと言われている。連れて行こう」


 フウカの正面に、見張りが佇立する。


「立て。お前には仕事をしてもらう」

「そ、それって……」


 わざとらしく聞き返すフウカに、見張りはいらだたしげにサブマシンガンを上下させた。


「さっさとしろ。それとも何か? 何か動けない事情でもあるのか」


 フウカは横目で風末の状況を確認した。

 鎖は半分ほど切れているが、解放にはもう少し時間がかかる――。


「お前、まさか」


 後ろの見張りが、猜疑心に満ちた声色で言いかけた刹那、突如として横合いから飛び出して来た大きな影が、彼を地下道奥まで突き倒す。

 とっさにそちらへ目をやるフウカ。見張りを襲う、その見知った姿。

 黄金の身体に、自分の手で改造した強靱なボディ――。


「カイン!」

「野郎!」


 喜色を込めて叫ぶフウカと、武器を握って踏み込む見張り達の怒号が重なり、

 寸時、鋭い一閃が暗がりに走り、背を向けていた見張り達は物も言わずにがくりと崩れ落ちる。


「峰打ちだ……」


 その傍らには、白い剣を携えて、アイアンホワイトが佇んでいた。


「ちくしょう、てめ――」


 残る一人。フウカの側にいた見張りが銃口を向けようとするや否や、自由になっていたフウカは風末を両手で持ち上げ、無防備な頭部めがけて振り下ろしていた。

 盛大な金属音を立ててへにゃりと尻餅をつく見張り。これで敵は全て片付いた。


「カイン、アイアンホワイトさん! 良かった、無事で……!」

「ワン! ワンワン!」

「そこのカインが、君の反応を追跡して案内してくれたんだ。間一髪だったな」


 アイアンホワイトは周囲を見回しながら警戒を怠らず、フウカへ尋ねる。


「ガレクシャスの行方に心当たりはないか?」


 知ってます、とフウカは答える。


「ここをまっすぐ行って工場地帯に出て……管理人室から下へ降りた大空洞に、います」


 フウカは手短にエデンや、パワーコアの事を伝える。その性質、人智を超えた御業を。


「それは捨て置けないな……情報提供、感謝する」

「行くんですね……?」


 ああ、とアイアンホワイトは頷き、思い詰めた口調で告げる。


「奴は、私が止める……! この身に代えてでも、絶対に!」

「私も行きます! できる事はあるはずだし!」

「ワンワン!」

「済まない、二人とも……さあ、行くぞ!」


 アイアンホワイトが先に立ち、フウカ達は地下鉄道を出る。

 工場地帯ではまだ異変は何も起きていないようだったが、予断は許さない。足を止めずに管理人室へ駆け込み、エレベーターへ入る。

 そうして大空洞へ降りて来た一同は、ついにガレクシャスの背中を捉えた。


「ガレクシャス……」

「……アイアンホワイトか」


 ガレクシャスはちら、と目線を投げかけたが――すぐに興味をなくした風に、奥にあるシェルターまで近づいて行く。


「長きに渡る我らが因縁。秩序か暴力か、その決着をつけよう……」

「そんなものはどうでもいい」

「――なんだと?」


 ガレクシャスは指先から伸びた一回り小さいマニピュレータで、壁に設置されている装置にパスワードを入力していく。


「本気で……言っているのか? ――この上まだ私を、正義を愚弄するか……!」

「ここに至って、そんな些事に気を取られている場合じゃないというだけだ。俺には成さねばならない目的がある……お遊びはこれまでだ」

「それはやはり、神の星――エデンへの報復を……!?」


 ガレクシャスの目前で、シェルターのドアが、ゆっくりと開いていく。


「目指すはただ、暴力による変革。敵も味方も支配してこそ、真の自由を得られるのだ」


 ……その内部から噴出する、妖気めいた得体の知れない圧力に、フウカはぞくりと不吉なものを覚える。


「待て……やめるんだ、ガレクシャス! 今ならまだ引き返せる!」

「……長かった。おぞましい真実を解き明かすまで。抗うための力を得るまで。――お前はとうに眼中にない。そこで指をくわえて見ていろ」


 台詞の最後にはかすかな失望の色を含ませつつ、ガレクシャスが一瞥を返すと、同時。

 猛烈な光がシェルターの内側から漏れ出し、広大な大空洞を、爆発的な極光で染め上げていく。


「よせ、ガレクシャス!」

「ダメですよ、私達も外へ……!」


 フウカはアイアンホワイトを後ろから抱きすくめるように制止し、迫り来る極彩色の光から逃げるように、その手を握ってカインとともにエレベーターへ走った。




 赤熱めいて暮れなずむ、あかね色の空。地上へ逃れたフウカ達を迎えたのは、一瞬、地面が浮き上がったかのような感覚。

 獣の叫吼にも似た鳴動が鳴り響いたかと思うと、工場群を隔てた後方から、さながら火柱の如く荒れ狂う光が、天をも衝き砕かんと立ちのぼる。

 間髪入れず地響きを伴って周辺の地面が爆散し、火の玉のように燃え上がる何かが、空を蹴るようにしてフウカ達の前へ降り立った。


「ガレクシャス、なのか……?」


 地下大空洞から硬い岩盤をぶち抜き、逆巻く炎を纏って現れた巨影。

 否――炎は高熱を宿してはいるものの、無作為に空や物を焦熱させているわけではない。 ガレクシャスを中心に、蝋燭の火を思わせるが如く一定の形を維持し、その上で凄絶なまでの火力を見せつけているのだ。

 言うなれば、オーラ。そしてその色はコアと同じ、輝く真紅。

 世界をおののかせるかのような、これまでとは比較にならぬ程のプレッシャーをまき散らす、黒金と紅の威容。

 一見して、輪郭といった姿形に変化はない。ただし、中身はまるで別物だ。額を伝う冷や汗を拭うのも忘れて、フウカはそう思った。


「……怒れば怒る程、際限なく力があふれる……これこそが、パワーコアの本質か……」


 ガレクシャスが言葉を発する。

 超越者と至ってなお、その台詞は醒めた声調だった。


「パワーコアの力を、我がものとしたのか、ガレクシャス……!」


 アイアンホワイトの詰問に、ガレクシャスは軽く肩を回しながら応じる。


 ――たったそれだけの動作で、突風めいた肌身をえぐる程の威迫が、空間一帯を揺るがした。


「一部だけ、だがな……『本体』を全て取り込むには、まだ何かが足りんようだ」

「本、体……?」

「それならそれで構いはしない。十全である事に変わりはない」


 フウカがおうむ返しに尋ねたが、その時にはガレクシャスは、不吉な色をたたえた眼差しで、こちらを見下ろす。重力のようにのしかかる、はっきりとした害意。


「とすれば後はやはり、喰って喰って、地力を底上げするとしよう……協力してもらうぞ」

「――ッ、断る!」

「アォォォォーン!」


 アイアンホワイトが騎士剣を構え、カインが遠吠えを上げて、左右から仕掛ける。

 奴は恐るべき大敵だ。パワーコアを得た事で、その力がどこまで伸びているかは計り知れない。

 だが、屈するわけにはいかない。臆しようものなら、ガレクシャスは容赦なく、文字通りの意味で全てを喰らい尽くすだろうから――。

 されども、決死の意を込めて突撃を敢行したアイアンホワイト達を、ガレクシャスはものともしなかった。

 左方から寄り来るアイアンホワイトの、大上段から降り注がせる斬撃を、軽く振るった手の甲で受け止め、アイアンホワイトの体躯ごと巻き込んで打ち下ろすように叩きつける。

 反復移動によるフェイントをかけながら切迫するカインに対しては、片足を無造作に振り上げ、地面を踏みつけた。

 それだけでクレーターが出来る程のインパクトが走り抜け、扇状の亀裂が膨れ上がる地面に、カインはつんのめるように動きを止めてしまう。

 ガレクシャスがローキックを振り抜き、よろめくカインを吹き飛ばし、工場の一つへ叩き込んだ。


「カイン!」


 激しい土煙を上げて、砕かれ落ちた壁の奥へ消えるカイン。

 フウカの悲鳴には誰も応じる者はなく、寒々しい風だけが埃を乗せて吹き抜ける。


「そ、そうだ、風末を……!」


 ガレクシャスのあまりの暴威に呑まれかけていたが、寸前で我に返ったフウカは、風末を取り出して拳銃を構えるように掲げる。

 電光のような指捌きでコマンドを入力し、特殊な電磁波による遠隔ハッキングを試みる。

 後は、画面内に対象を収めるだけだ――そうやって画面越しに覗き込んだガレクシャスは、すでにこちらへ指先を向けていた。

 背筋から脳天まで、冷たいものが駆け抜ける。

 脊髄反射で風末から手を離し、フウカは真横へ転がるように避けていた。

 ガレクシャスの指の間に挟み込まれていた人の頭ほどの石が、ぴんと弾かれ、弾丸のようにすっ飛んでくる。

 ライフル弾にも等しい威力を乗せた石は、あまりの速度で撃ち出されたために空中でその質量の大半を削られながらも、フウカが直前に手放した風末を粉砕するのみならず、余波だけでフウカを数メートル吹っ飛ばした。

 ごろごろと転がされ、うめきながら地へ伏すフウカ。

 カインもアイアンホワイトも、叩き伏せられた状態で起き上がる気配はない。


「こんなものか……たやすいな」

「うぅ……っ」


 衝撃と打撲に身体を痛めつけられ、それでもなおコンクリートの地面へ両腕を突き、フウカは上体を起こそうとする。


「お前に生きていられては、面倒な事になりそうだ。今のうちに、消しておくか……」


 フウカに覆い被さる、巨大な赤い影。

 巨腕を振りかざしたガレクシャスが、一息にフウカを叩き潰さんとする。


「……ティム……!」


 朦朧とした視界の中で、ほとんど無意識に、脳裏をよぎったその名を叫んだ刹那。


「フウカーーーーー――っ!」


 聞き慣れた、フウカにとって一番大切な人の声が、本当に返ってきた。


「何……!?」


 ガレクシャスが振り返る。同時にその姿を、いくつものライトが照らし出す。

 風を吹き散らすやかましい駆動音。吹き付けるガスの匂いと熱風。


「バーニア全開! 出力最高! 目標、ガレクシャス! そのハンドルを思い切り前に倒せ、ティム!」


 それは、巨体のガレクシャスをも上回るサイズの、巨大な宇宙船だった。


「うん! いくぞ……とっかーん!」


 見覚えがある。あれは、みんなでサルベージした、フウカの――。


「ば、馬鹿な、あれは――」


 宇宙船はガレクシャスめがけて超加速。見る間に急接近したかと思うと。


「うおおぉぉぉぉぉッ!?」


 音を立てて周辺の柱をへしゃげさせ配管群をまとめて巻き込みながら、その船体でボーリングのピンでも弾き飛ばすように体当たりしたのであった。


「え……えっ?」


 数メートル先に立っていたはずのガレクシャスが絶叫を残して目の前で船に轢かれ、あまつさえ地面をえぐり取りながらはるか彼方まで引きずられ、建物の一つへぶち込まれた。

 その際に駆け抜けた爆音と振動すら非現実的で、事態について行けないフウカは数秒、目をまん丸にした上ぽかんと口を開けていたのだった。


「フウカ、大丈夫っ?」


 どこか三年前を思わせる、斜めに突き刺さったままの宇宙船の扉が開き、そこからティム、ワガハイ、そして何人かのクルーが連れ立って飛び降りてくる。


「ティム!」


 フウカは疲労も痛みも忘れて立ち上がった。足取りはまだふらつきながらも、歩み寄ってくるティムへ近づいて、上体から倒れ込むように抱きついた。


「わ、わわわっ」

「ティム! ティム! うわーん! 私……すっごく怖かったよ……!」

「ご、ごめんね? 早く来られなくて……」


 抱きつかれたティムはちょっと面はゆそうにしながらも、フウカの頭に手を置いて、ここ最近はご無沙汰だったなでなでをしてくれた。


「あのね、フウカ……ぼくは君に、伝えなければいけない事があるんだ」


 ティムはフウカの肩に手を置いて、じっと視線を注ぎながら言葉をかける。


「ぼくは……ずっと悩んでた。ぼくなんかが君の力になれるのか、このまま旅についていって良いのか、って……」

「ティム……それは」


 思わず口を開きかけたが、ティムの真摯な声音にフウカは思わず喉をごくりと鳴らし、黙って続きを待つ。


「正直に言うと、もう旅を辞めてしまおう、と考えた事さえある。君の能力に見合った他にふさわしいパートナーがいるはずで、ぼくが身を引く事で、君がより安全になるなら、って」


 フウカはうっすらと視界が滲み始めたが、ともすればこぼれそうになる熱いものをこらえ、ティムを信じて耳を傾ける。


「でも……違ったんだ。ぼくにしかできない事だってあるんだって、分かったから。こんなぼくにも、誰にも負けないものが一つだけあるんだからって!」

「ティム……!」

「それは、フウカ――何よりも君を思う、この気持ちなんだ!」


 ティムにとっては、自分の思いの丈を飾らずにぶつけたものだろう。

 ただフウカは確かに喜びを感じながらも、同時に顔が朱に染まっていった。


「う、嬉しいよ、ティム……嬉しいけども……っ!」


 無理に笑おうとした口元がへらっと締まりを失い、真っ赤になったままよそ見をしたり、両手でティムの胸を押しやるようにさすったり、恥じらってしまう。

 だってそうだろう。フウカだってティムの事は大好きなのに、こんな風なシチュエーションで言われると、その。


(も~……ティムったら、よくこんな歯の浮くような事さらっと言えるよね……っ!)


 その正直さ、率直さも中々誰もが持ち得ない美徳である。などと現実逃避気味に思っていると、脇からワガハイが咳払いしながら割り込んできた。


「お前達、惚気るのはいいが、さすがに時と場所をわきまえた方がいいぞ、と親友キャラとして陳腐な台詞でわざわざ忠告しなければならん流れかこれは?」

「わ、ワガハイ……!」


 ささっとティムから離れるが、その所作すらワガハイは冷め切った目で睨んで来る。


「ああ、もういいもういい。そんなもんより、さっきのガレクシャス……あの様子だと恐れていた通りの事態になっていたようだな」

「うん……。でも、ああやって船の下敷きになったのなら、もう身動きは――」


 ちらり、とフウカが宇宙船の方へ目をやった、矢先。

 一旦は収まったかのように思われた緋色の光が、船の下から爆発的に噴出し、荒々しい爆風が工場地帯を揺るがした。


「きゃあっ!」

「フウカ、ぼくに掴まって……!」

「お、おい……これは、まさか……冗談だろう……っ!?」


 かろうじて振動をこらえながら、愕然と視線を囚われる一同の眼前で、地鳴りとともに宇宙船が震え始める。下方から押し上げようとでもいうかのように、縦の衝撃が断続的に船体をぐらつかせ、震源はより大きく、激しくなっていく。


「ガレクシャス……! や、奴はまだ!」

「……本体……」


 フウカが漏らした単語に、ワガハイが振り向く。


「なんだと? 本体……?」

「ガレクシャスはあの大空洞で、パワーコアに接触した。でも、その全ての力を使えているわけじゃない、と思う……」


 ガレクシャスの言葉を思い返しながら、フウカは急速に一つの仮説を組み立てていく。


「そもそも、パワーコアは元々一つの巨大な光の塊。お母さんも私も、パワーコアの力を使えてはいるけれども、あの塊はずっとそこにあるままなの。誰のものでもない……」

「ならばガレクシャスは、たった一部に過ぎない力で、あれほどの……!?」

「それも問題だけど……私は、あの塊――『本体』の力さえあれば、ガレクシャスを止める事も可能だと思う。ガレクシャスよりも先に、手に入れられれば……っ」

「――じゃあ、フウカ。それは君が行くんだ」


 ティムは、次第に浮き上がり始める宇宙船を見据えながら、肩越しにフウカへ言った。


「私、が……?」

「パワーコアに接触できたのは、君のお母さんとガレクシャスを除けば、君だけなんだ。だったら、もう一度側まで接近できれば、その全ての力を使えるはず、とぼくは思う」


 過去のキキは、ヤーヴァにより途中で本体から引き離された。

 ならば例えば、あのまま本体と接触し続けていたら、どうなったろうか。

 キキとフウカ。どちらも条件は同じ。ただあの時の続きを、母の代わりに娘がするだけなのだ。

 確証はない。パワーコアに接近できるかも、パワーコアと接触できるかも、何一つ。

 その結果がどうなるか、誰にも分からない――。


「おい、話し合う時間はもうないぞ! 奴が出てくる!」


 瓦礫が絡み合った地中から、煉獄じみた禍々しいオーラが燃え広がる。船体はついに持ち上がり、その下からは、両腕で抱え上げているガレクシャスの姿が目視できた。


「うお……おおおぉぉぉぉぉッ!」


 ガレクシャスはそのまま、腕の力だけで高々と掲げた宇宙船を、明後日の方向へ投げ飛ばした。

 暴風が地上を切り裂き、回転しながら飛んでいく宇宙船が、耳をふさぎたくなる程の音を立てて進路上の全てを薙ぎ倒して小さくなっていく。

 周辺は静かになったが、むしろフウカ達の胸中はとめどない戦慄であふれていた。


「投げ、たの……? 千トン以上もある、金属の塊を……!」

「じ、次元が違いすぎる……! と、とはいえあれほどのパワーを放出するには、それなりのチャージ時間が必要そうだが――」


 何の慰めにもなっていない。おまけに、ガレクシャス自身には損傷らしい損傷もなかった。むしろその身を包む苛烈な紅のオーラは、より勢力を増しているかのようで。

 正攻法では、とてもかなわない。それなら、わずかな情報を組み合わせて浮き上がってきた、一筋の可能性に賭けるしかなかった。


「私……行くよ……! 本体まで行けば、もっと強い力が出るはず……そしてガレクシャスを止めてみる!」

「うん、ここはぼく達に任せて……!」


 頷いたティムの背後から、ロボット達が一斉に駆け付けて来る。

 ガレクシャスの手下達を打ち倒して援軍に来た、長老さんやダララロ、ニホン村のみんなだ――!


「ティム……みんな、お願い!」


 フウカは再び管理室を目指して駆け出す。どうか先ほどの崩落で、大空洞までの道が閉ざされていないようにと。


「何をしようとしているのか知らんが……黙って見過ごすと思うか?」


 フウカの背へ向けて、踏み出そうとするガレクシャス。


「そうはさせないぞ、ガレクシャス! ぼく達が相手だ!」


 その魔手を阻むように、ティム達が立ちはだかった――。

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