三十二話 キキとヤーヴァ 下


 さらにしばらく経った。

 惑星開発と一口に言っても課題は山積している。

 慣れぬ環境で続発する事故。人同士のトラブル。危険な原生生物との邂逅。自然の猛威。 テラフォーミングの途上には無数のつまづきがあったものの、キキ達は粘り強く手を取り合い、多数の移民を受け入れ始める程に進捗を押し進めていたのだった。


「惑星そのものの土壌が緩いおかげで、遠方に行くほどインフラの構築が難航しているわね。ロボットのメンテナンスももっと頻繁に行わなきゃ……ああ、何をするにも人手が足りない!」

「次のチームを増員してもらえるよう、ぼくが掛け合っておくよ。とびっきりの緊急事態みたいに伝えれば、政府も重い腰を上げてくれるさ」

「ふふ、頼りになるわね。あなたがいてくれて本当に良かったわ」


 センター内の通路を歩きながら、それぞれの苦労を軽快に笑い飛ばすキキとヤーヴァ。

 毎日が目も回る程の忙しさだけれど、そこには確かに、新たな世界を自分達の手で切り開く充実感と、困難を乗り越える度にパートナーとの絆が深まっていく喜びがあった。

 セキュリティ厳重なゲートをいくつも抜けて、ようやく自分達の部屋へ戻って来る。

 ドアを開けて玄関に入ると、張り詰めていた気がしぼむように抜けていくのに合わせ、リビングからとたとたと聞き慣れた足音が近づいて来る。


「お父さん、お母さん! おかえりなさーい!」


 ぱっと明るい顔を出して来たのは、最愛の娘、フウカだった。その足下に追随するように、黄色い一頭身の小さな影――卵型のお世話ロボットがぴょこぴょこ現れる。


「ただいま、フウカ。いい子にしてた?」

「うん、してたよ! ミケも一緒にいてくれたから、全然退屈じゃなかった!」


 フウカが黄色いロボットを抱え上げて頬ずりし、声音を重々しいものへ変えて囁く。


『フウカはとってもいい子にしていたのじゃ。ワシがしっかり見ていたぞい』


 その微笑ましい仕草に、キキはヤーヴァと顔を見合わせて笑った。

 たまの休みにはこうしてフウカの待つ自室へ帰ってはいるものの、それでも普段から一人にしてしまっているのも事実で。


「――さ、ご飯にしましょう。今日は何がいいかしら」


 久しぶりの家族水入らず、プライベートなゆったりとした空間。


「来年になったら、フウカも学校へ通うんだよ」


 ヤーヴァの言葉に、テーブルについて夕食を食べているフウカが怪訝そうに目を上げる。


「学校?」

「そうよ。いっぱいのお友達と、楽しくお勉強するの。フウカはとってもいい子だから、すぐにお友達がたくさんできるわ」

「お勉強したら、お父さんとお母さんのお手伝い、できる?」

「え――」


 フウカからしたら何気ない質問だったのだろうが、その内容にはキキもヤーヴァも、胸を強く衝かれるものだった。


「……ええ、きっとね」

「ふおお、じゃあ、頑張る!」


 フウカはこのアーヴェルでキキが産んだ、初めての新しい命だ。

 エデンの町並みも、人との関係も、遊びも、文化も、まだ何も知らない。フウカにとってはこのアーヴェルこそが生まれ故郷で、キキとヤーヴァだけが世界の全てなのだ。


「……フウカには、もっと色々な経験をさせてあげたいわね」


 夕食後、子供部屋に戻って就寝しているフウカを、戸口からキキとヤーヴァは愛情と罪悪感が入り交じった、複雑な眼差しで見つめる。


「そうだね……あの子ももう何も分からない赤ん坊じゃないのに、一向にこのセンターから出られないんじゃ可哀想だよ。ここで覚えられる事にだって限界はあるし、やっぱり外の世界を見せてあげたいな」

「そのためには、早く星の環境を安定させて、緑化を進めないといけないわね。その後は学校、映画館、博物館……展望台なんかも建ててみたいわ」

「あはは、まださすがにそこまでは気が早いよ。でも……うん、できるだけ頑張ろう!」


 だが――着々と進む施設建設、開拓計画を阻むかのように、アーヴェル各地では原因不明の災害が頻発し始めていた。

 それはまさに災いだった。何の前触れもなく出現したハリケーンが、キャンプ地を襲う。

 固い岩盤と人工の支柱で守られていたトンネルや工場が、地割れとともに地中へ沈む。

 ダムを造り、厳重に管理されていたはずの河川が、どこからともなく増水した濁流に押し流される。

 ただちに調査チームが組まれた。もしくは管理状況に問題があると疑われた。まだこの惑星の気象情報を把握しきれていないのではと弱気な声が上がった。

 発見されたわずかな因果関係を元に空論めいた推測が持ち上がり、憶測が混迷を呼び、連日かけて原因の究明が行われた。

 けれどそのどれもがそれらしく聞こえ、なのに的を射ているようには思えなかった。

 本来あり得ない理由による災害――もはや人智を超えた何かが、アーヴェルを、そして開拓団を攻撃しているように感じられた。


 得体の知れない何かが跳梁している。キキには理屈ではなく感覚として、アーヴェルが徐々に崩壊していくサインを受け取っていた。

 言葉にできない何かが、自分達を阻止しようとしている。

 それは何だ? 神か? 悪魔か? だとすれば自分達の邪魔をして何になる。何の得がある。

 脳裏によぎったのは、数年前に目の当たりにした、パワーコアの輝きだった。

 もし、もしも――あれがこの星の主のような存在であり、星の意思を代弁するような、途方もない存在だとしたら。

 キキ達はアーヴェルへの侵略者か何かかと、敵視されているとでも言うのか。

 ナンセンスだ、と苦笑して首を振る。それが事実なら、パワーコアはキキ達を追い出したいあまり、その手で自分の星を傷つけているという格好になる。荒唐無稽に過ぎた。

 とはいえ、当のパワーコア自体の研究とて、さして進んでいるわけではない。

 一連の災害は小規模なれど、原因不明であり事前の予防が不可能な以上、座視していいものでもない。パワーコアと何らかのつながりがあるのなら、より一層研究に力を入れるべきだった。すべき事は数多い。

 キキは唇の端を歪める。上等だ。『敵』の正体が何だろうと、好きにするがいい。


「絶対、負けない……!」


 戦士として困難と戦っている。前進しているという熱き実感。暗い穴の中から次第にせり上がるかのようなスリルが、キキの気力をより充実させ、神経を研ぎ澄まさせていく。

 エデンではもてあますほどの天才と謳われた、頭脳と実力を存分に発揮できる瞬間。

 本能の奥底にたぎる魂は、あるいは何よりも、この危地を望んでいたのかも知れない。


「ここは私達の……フウカのための星なの。勝つのは、私よ」




 それからいくらかの月日が経過。


「また『穴』が発生したらしいわね……!」


 その日は晴天。ちょうど昼を回った時刻にヤーヴァを伴い、コントロールルームを訪れるキキ。

 正面モニターには『A』のロゴとともに統括AIアダムが表示されており、部屋の各所に配置されている端末の前には所員達が席につき、忙しなく働いている。


『はい、キキ様。今日未明から正午にかけて、E-4地区に一カ所、I-2地区に二カ所、Y-6地区に六カ所のホールを確認しました』


 スクリーンに撮影されたホールの画像を目にして、キキは色を失う。加速的に増え続ける穴の数に、誰もが険しい表情を隠せなくなっていた。

 ホールとは、ここ数ヶ月の間、突如としてアーヴェル全域に生じている、巨大な穴の事である。

 原因不明、対処法なし。大きさにばらつきはあれど、発生地点の全てを呑み込む穴は、以前には地区一つを丸ごと呑み込んだ事もある。その上、ホールの奥には底がない。

 無人機による探査が数度実施されたものの、ある深度へ降りた段階から、まるでブラックホールに消えたかのように反応が失せてしまうのだ。穴の中には人の手の及ばぬ何かがうごめいている。何らの足がかりも得られないまま、キキ達は改めて災害の恐ろしさを見せつけられるのだった。

 そう。これもある種、災害なのだ。それに疑問を呈す者はもはやいなかった。ホールの他にも、アーヴェルを食い荒らす自然災害は激しくなる一方なのだから。

 いや、それだけならまだいい。暴風や濁流に薙ぎ払われても、時間をかけ人を動かせばまだ修復や修築は可能なのだ。

 だが極めつけのこの穴。ホールだけは、手の施しようがない。

 一度地上へ穿たれたら最後、いかに埋め立てようとしても、その努力を嘲笑うように穴そのものがじわじわと広く、大きくなっていく。頻度も数も増えるばかり。このペースでいけば、いずれアーヴェルはホールそのものに取って代わられてしまうのではないか、と。


「なんてこった……早くホールへの対処方法を見つけないと、我々はみんな呑み込まれちまうぞ!」

「エデンからの移民達も不安がって、昨日は暴動が起きる寸前だった……残された時間は想定よりずっと少ないのかも知れないな」


 所員達もここ数日、ろくに寝ずに原因の究明、特定を急いでいるが、キキとヤーヴァの胸中には、ある懸念が急速にわだかまりつつあった。


「一つ一つの災害には一切つながりがないのに……やっぱりパワーコアが原因なの……?」「分からない……情けない話だけれども。けど、このまま手をこまねいていては、危険だ」


 目を向けなければならない。アーヴェルはいつか、人の住めなくなる星になると。

 この分では、エデンからの補給船もまともに迎えられないかも知れない。貯蔵されている資材や食料にも限界はある。

 この状況が続けば、もはや開拓どころではなかった。

 刃物を突きつけられたような、うなじを這う冷たい予感が収まらない。腹の奥が嫌な熱を持っている。

 ひょっとすると自分達のまったく与り知らぬところで、恐ろしい事態が進行しているのではと――破綻はもうすぐそこまで迫っているのでは、と。


 瞬間、天地のひっくり返るような凄まじい激震が、テラフォーミングセンターを襲った。


「きゃあっ!」

「キキ……しっかりして!」


 激しい揺れに身体を吹き飛ばされたキキは、とっさに腕を伸ばしたヤーヴァに抱えられ、部屋の端末の一つへしがみつく。

 近くにいた通信士が端末の画面を見ながらひきつれた声を上げる。


「きょ、巨大な地殻変動が発生しています! アーヴェル全域……また来ます!」


 息つく間もなく、再びの大地震。ルーム内の人々は紙のように吹き飛ばされ、電灯はほとんどが破壊され、警備ロボットは倒れ、至る所でパニックが巻き起こる。


「一体……何が……!」


 強く打ち付けた額から鮮血を流し、キキは顔を上げる。

 そこに声をかけたのは、画面から重度のノイズをまき散らしたアダムだった。


『電波障害が……発生しています。アーヴェル各地に、多数のホールを確認。現在情報、収集中……』

「アダム、無事なの!? それに……ホールですって――!?」

『全エネルギー、急速にダウン……各地区との交信、途絶……。復旧を……』

「アダムを復旧させて、急いで!」

「もうやってます!」


 キキの悲鳴じみた呼び掛けに、通信士も怒鳴るように叫んだ直後。

 衛星が撮影した映像が、スクリーンにいくつものコマ割りとなって映り込む。

 キキは頭が真っ白になった。

 穴だ。数え切れない程の穴が、アーヴェルを蜂の巣にしている。

 黒い点がまだらとなって、青と緑で彩られた星を、喰らい尽くそうとしている。

 キキにはそう見えた。




 数時間が経過し、テラフォーミングセンター内は一応の平穏を取り戻したかに思われたが、随所に刻まれた傷痕はなお色濃かった。

 医務室で治療を受けている怪我人の何人かは生死の淵をさまよい、壊れた警備ロボット達の回収は遅々として進まず、壁や床に点々と残る血糊や破片が、短時間とはいえ彼らを襲った惨劇を生々しく物語っている。

 異変を知ったアーヴェルの住人達からはひっきりなしに現状の説明を求める電話やメールが届き、所員達はその対応や、センター内のシステム復旧に不眠不休の作業を強いられ、陰鬱な空気が垂れ込めていた。

 キキとヤーヴァはコントロールルームへ缶詰となり、率先して指揮を執り、閉塞した事態を打開しようとしていたが。


『……以上、判明している被害状況です。引き続き情報の集積に努めます』


 アダムから寄せられる絶望的な報告に、キキ達は追い詰められていた。

 最初の大地震でほとんどの機材が破壊された。どれほどの怪我人が出たか、どれほどのインフラが損傷したか、正確に掴むのは容易ではない。

 それでも、こうして教えられる以上の凄惨な事態が、現在進行形で発生しているのは確かで。


「どうしてこんな事に……」


 誰かが生気のない声音で呟く。スクリーンは相変わらずアーヴェルを映しており、被害の度合いに応じて赤く塗り潰されていく。

 ホールについても同様だ。各地からホールの発生地点の情報が送られて来ているが、それを超える速度で、大小様々なホールが今も、地上に開き続けている。

 それ以外にも断続的な余震が襲い、ハリケーンなどの災害――その上、各所に配備されていたロボットの暴走までもが同時多発的に起きていた。

 ロボット達の暴走に関しては、コアを装着したモデルのみが暴走の対象となっている事が共通点として判明しているが、因果関係はやはり分かっていない。


「控えめに言って……壊滅ね」


 天変地異。たった数時間前まで、呑気にホールへの対処法を練っていたのが嘘みたいだ。


「急いで、住民達を避難させなければ、取り返しの付かない事になるよ! キキ……!」


 そんな事は分かっている。だが、どこに避難させろというのだ?

 次にホールが開く場所も、災害が襲う地区も、いつ余震が起きるかも、何も予測できないのだ。予測できないなら対処しようがない。対処できなければ逃げるしかない。

 なら、どこへ――堂々巡りながらもキキは、すでに一つの答えを導き出していたが、意識的にそれを口にしないようにしていた。

 でも、それももう限界だった。諦念が虚脱感を呼び起こし、ともすればその場にへたり込みそうになってしまう。


(保身……名誉。権力……知的好奇心。かつての私は、愛とそれらは、両立できるものとたかをくくっていた……)


 自分ならできると。だからヤーヴァを連れてきた。新しいものが見られる。もっと高みに行けるから、と。


(でも、そんなものに目を曇らされていたら、本当に大事なものを失ってしまう……)


 キキはまぶたを閉じる。

 暗闇の中に浮かぶは、鮮明な自室の風景と、暖かな笑い声――愛する娘の顔。

 キキは目を開き、押し殺した声音で、後回しにしていた問いを尋ねる。


「アダム……最後の質問よ。このペースでアーヴェルが崩壊し、人が住めなくなるのは――どれくらい後?」

『算出中……もって七日でしょう』


 キキは全員に聞こえるように、腹の底から声を張った。


「――ただちに全住民の速やかな星外避難を実施します! 宇宙港の脱出艇を使えるよう軍に連絡して!」

「キキ、本気かい……!?」


 ヤーヴァのみならず、所員達からもあっけにとられて向けられる視線に、キキは構わず言葉を続けた。


「この星はもう終わりよ! 私達は負けた……! けど、まだ命は残ってる! その前に逃げるのよ! 急いで!」


 彼らの反応は鈍い。ためらうのは理解できる。肌身に刺すほどよく分かった。

 本当にやれる事はないのか。まだできる事はあるはずだとも考えている。薄々は、まだどうにかなるとの希望的観測にすがりたいはずだ。

 だってここで諦めれば、アーヴェルという希望を永遠に放棄する事になるのだから。

 人類の発展。その栄誉に寄与し、探求し、歴史に名を残す。ここに集った彼らは、大なり小なりそうした欲望を携えていて。それが開拓への原動力ともなっていたはずなのだ。

 単なる挫折ではない。星を開拓するどころか、不可逆的に破壊したと指弾されるだろう。

 多くの物資をつぎ込んでおいて、夢を抱かせておいて、任務を失敗し民意を裏切ったとしてエデンからは糾弾される。積み上げて来たキャリアも、人生も棒に振る。

 社会からつまはじきにされる。成功へのレールが取り除かれる。

 すまないと思う。これが彼らの身に起こる理不尽へ対し、力が及ばず申し訳ないと謝罪の一つもしたい。

 だが、それでも、キキは何もかも捨てろと叫ばなければいけない。

 もうそこまで、自分達は決断しなければならないのだから。

 さもなければ、全てを失う。

 仕方ない。こうするしかない。命より優先すべきものはない。これが最後の、室長としての役目なのだ。

 何かが冷たく崩れ落ちて行くような感覚とともに自身へ言い聞かせつつ、キキは矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。


「責任は私が取るわ! だからみんな、私を信じて逃げて!」




「お父さん、お母さん、この船に乗ればいいの……?」


 宇宙港にて、キキとヤーヴァはフウカを連れて、脱出艇の前までやって来ていた。


「そうよ。私達もすぐ追いかけるから……」

「船に乗ったら、する事は分かるね? コールドスリープ装置に入って、ボタンを押す。それだけで次に目覚めたら、エデンに着いているから」

「うん、何度も聞いたから……それくらい分かるよ」


 見るからにフウカは気落ちした風で、それから不安げな面持ちで宇宙港を見回す。


「ここに来るまでにも、みんなすごく怖がってた……何があったの……?」

「あなたは気にしないで大丈夫。ただちょっとしばらく家には帰れないと思うから、おもちゃとか絵は持っていけないけれど……」

「ミケは?」

「ごめん……ミケもダメなんだ」


 フウカが悲しげに目を俯かせる。

 でも、仕方ないのだ。ミケはコアを持っている。捨て置かなければ、いつ暴走してフウカが襲われるか分からない。


「で、でも、戻って来たらきっとまた会えるから。お父さん達を信じて、向こうで待っててくれるかな……?」


 安心させるように微笑みかけるヤーヴァに、フウカもこくんと頷き、あるかなきかの笑顔を浮かべた。


「じゃあ、わたし、待ってるからね……絶対、迎えに来てね……? 約束だよ……?」

「もちろんよ。――ああ、それと……」


 キキはポケットから可愛らしいピンク柄のペンダントを取り出し、フウカに手渡した。


「これ、お母さん達だと思って、大切に持っててね。向こうで会えるまで、誰にも渡したらダメよ?」

「うん……分かった」

「でも、もしも本当に困った事になったら……開けてみて。きっとあなたの力になってくれると思うから」


 フウカは素直に頷き――二人が見守る前で、何度も振り返りながら船に乗る。

 船は自動操縦で発進し、ゆっくりと浮上し始める。

 フウカは窓から二人を見下ろし、見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。


「……これで、良かったのよね」

「うん……ぼく達に何かあってもいいよう、パスワードをフウカに託したんだ。もし誰かがアーヴェルを訪れた時に、パワーコアを見つけられるように……」

「無力よね……私達。ここに来て、何か一つでも、やり遂げられた事なんてあったのかしら……」

「……あったさ。だからこそフウカに、エデンを見せてあげたい」


 だからこそ、とヤーヴァが振り返る。


「ぼく達はこの星の責任者として、最後まで残らなきゃならない。けど、絶対に生きて、フウカを迎えに行こう。みんな元気で、また笑い会おう」

「……そうね」


 キキとヤーヴァは寄り添い合い――後ろ手に指を絡め合ったのだった。

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