夢幻の契り
冷たい月明かりが射し込む部屋で、おかつは横たわったまま泣いていた。
すると、長い影法師が、絹のような白い肌の背中へ歩み寄る。怯えた様子で泣き顔を上げれば、自分と同じ産まれたままの姿で、斬喰郎がそこにいた。
「うっ……ううう……うああぁぁああああぁぁぁああああああ!!」
涙があふれて止まらない。
力の限り、おかつは泣いた。
「すまない。遅くなってしまった」
抱き起こそうとする斬喰郎の胸に、おかつはしがみつく。
「嫌……初めてが、あんな化け物だなんて……絶対に嫌だ……」
震える声で、おかつは言葉を続ける。
「お願いします、斬喰郎様…………わたしを……わたしを抱いてくださいまし」
斬喰郎は何も言わずに、そっとおかつを抱きしめ、
月が雲に隠れる。
ふたりの吐息が闇夜に溶ける。
「ああっ、斬喰郎様……!」
おかつは、心地好い熱気に包まれて泣いていた。もちろん悲しみや痛みからではない。斬喰郎の優しさが、ただ、嬉しかった。
闇がふたたび、盈月の穏やかな明かりに照らされる。
「斬喰郎様……どうか名前を……名前を呼んでください……」
今この時だけの、今宵だけの愛しい人──おかつは身体を重ねながら、両手を伸ばして斬喰郎の頬に、しっかりと
「おかつ」
涙の痕が残る頬をゆるませ、おかつはそっと
「わたしのことは全部、明日には忘れてくださいね」
「……いや、忘れないさ。オレがおまえの初めての男だ」
「斬喰郎様……ありがとう……」
すっかりと雲が消えた夜空に、丸い月が綺麗に浮かぶ。
縁側にひとり腰掛ける魑獲紗丸は、澄んだ眼差しでそんな月夜をじっと見上げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。