悠久の旅人

 小高い丘の斜面からカヤが生い茂る畦道あぜみちへと降りてきた斬喰郎は、野焼きをしているおきなに呼び止められる。近くでは、三人の子供たちが枯れ枝でチャンバラ遊びをしていた。


「もうすぐ焼けんべ。お侍様も食べねぇかい?」


 おきから取り出されたのは、数本の細長い焼き芋だった。


「かたじけない」


 笑顔の子供たちに混じって、焼き芋を頬張る。旨くもないが、不味くもなかった。

 不意に山間を抜ける風にのってやって来たのは、獣と血のにおい。猟師が獲物を仕留めて戻ってきたのだろうか。


「ねー、ねー。お侍さまは、どこへ行くの?」


 焼き芋を逸早く食べ終えてしまった一番背の低い鼻垂れ小僧が、元気よく旅の行き先をいてくる。


「さあ……どこだろうな」


 悲しそうにほほんだ斬喰郎は、残り半分の焼き芋を小僧に手渡して頭を撫でると、翁に改めて礼を言ってから、ふたたび畦道をひとり進んだ。


「かっけぇーなぁ、あのお侍さま」


 言い終えてすぐ、鼻水をすすった小僧は、小さくなっていく長襦袢を見送りながら、笑顔をみせて焼き芋を食べ尽くす。



 秋空の下、男は今日も何処へと旅立つのか。


 風にそよぐ銀色の穂波が、ケラケラと笑い声のようにいつまでも音をたてていた。





 第一部【完】


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魔剣士ZANKUROU 黒巻雷鳴 @Raimei_lalala

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