紫の炎

 寝そべるふたつの人影が、薄闇のもとで揺れ動く。

 砂壁や障子も、わずかにきしんで規則的に音を漏らしていた。


(やだ……地震……?)


 熱を帯びた〝何か〟の温度が、すっかりと素肌に染み込んでいて不快だった。それと、下腹部の痛みに急かされるように、おかつは薄目を開く。

 目の前に現れたのは、黄色に輝く目玉をギョロつかせた蜥蜴トカゲのような醜い顔の男。この男が、全裸のおかつを組み敷いて犯していたのだ。


(──嘘、ウソ、うそ!)


 喉を突き破るほどの絶叫をしたつもりではあった。が、なぜだか、声がまるで出ない。手足も不思議なことに、力が入らずにまったく動かせなかった。


「ケタケタケタケタ! 年増の生娘にしては、具合が良いじゃないか。俺が飽きるまで暫く生かしといてやるから、それまでは楽しませてくれよ」


 戯光之介の細長い舌がおかつの首筋から乳房へ唾液の一筆書きを残すと、そのまま舌先は、乳頭をのたうち回るミミズのような動きで舐め尽くす。


(嫌だ……嫌だ、嫌だ……嫌っ! こんな化け物に、わたしの…………嫌ァァァァァァッ!!)


 金縛り状態のおかつが絶望の涙を流したとき、腰を打ちつけていた戯光之介の動きが止まった。


「…………なんだぁ? この妖気は?」


 純潔が散らされた膣から血管が太く浮き出た禍々しいフォルムの陰茎を引き抜くと、ゆらりと背中を丸めたまま立ち上がり、黄色の目玉を縦横無尽に動かし始める。

 自分と同等の妖気が……いや、それ以上に強さを増して、こちらへと一直線に近づいて来る。戯光之介は、未知の猛者に狼狽した。


「なんだ、なんだ!? こんなクソ田舎の村に、どうして──」

「おまえみたいな百鬼衆ひゃっきしゅうがいるんだろうな」


 間近で聞こえた男の声に素早く反応した戯光之介は、瞬時に障子を突き破り、縁側から中庭まで大きく飛び跳ねてから着地してすぐに振り向く。


 盈月えいげつの夜空の下──燃えさかるえんを羽衣のように身に纏う素浪人が、すべての魔物を斬り殺せると伝わる妖刀・魑獲紗丸チェシャマルを右斜め下に構えて迫っていた。


「だ、だ、誰なんだよ、おまえは!?」

「オレの名は、斬喰郎ざんくろう

「斬喰郎……!」


 戯光之介は、その名前に聞き覚えがあった。


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