宴の夜
──その夜。
庄屋の屋敷では、祝言の宴が催されていた。
大勢の村人たちが、飲めや歌えのドンチャン騒ぎで新郎新婦を尻目に
白無垢の婚礼衣装を着ているのは、おかつだった。けれども、その表情は喜びに満ちあふれているとは言えないもので、むしろ、心ここに在らず……まるで別人のように、相貌には生気がまったく感じられない。
「ケタケタケタケタ! 年増にしては、上玉の……おっと、これは失礼。実に美しい花嫁で、初夜がとても楽しみでごじゃりまする……ん? ございまする? ます?」
おかつの傍らで不気味に笑う新郎は、両目を縦横無尽に動かしながら、やけに長い人差し指で青白い頬をポリポリと
「
脂汗を流す庄屋が返事をうながせば、引きつった笑顔でおかつの両親が「はい」とだけ短く
満足そうにうなずきを返した戯光之介は、急に鼻息を荒くしてから舌舐めずりまでしてみせると、隣にすわるおかつの手を握って一緒に立ち上がった。
「あのう、戯光之介様……どちらへ?」額の汗を拭いながら、庄屋が慌てた様子で引き止める。
「酒も飯も、喰い飽きてもういらぬ。俺たちは子作りに励むから、おまえたちも好きにせい。ケタケタケタケタ!」
※
「──きゃっ?!」
一組の綿布団の上に手荒く転がされたおかつが、小さな悲鳴をあげる。
それを冷たい眼差しで見下ろす戯光之介。やがてすぐに、うしろ手で
「痛ったたた……………え?」
催眠術が解けて正気を取り戻したおかつが、ここはどこなのかと、半身を起こして薄闇が支配する部屋をしきりに見回す。
月明かりで幽玄な色に染まった障子と綿布団のやわらかさも相俟って、これは夢の中の出来事ではないかとおかつは一瞬考えたのだが、目の前の不気味な人影に気づき、これは悪夢なのかもしれないとその考えを改めた。
「あんた誰? 暗くて顔がよく見えない……」
「ケタケタケタ! 俺には、よーく見えてるぜ。おまえの怯える顔も、その肉付きのいい太股もな……ジュルル!」
そう言われておかつは、はだけた裾を急いで正し、今度は声の主の正体を確かめるべく、顔を近づけて目を凝らす。やがて人影の中に、突然ふたつの目玉が黄色く光った。
「あ…………あっ……あ…………」
叫びたくても、声が出せない。
頭の中が激しい耳鳴りで壊れてしまいそうだ。
「おまえは俺の嫁だ。俺の女だ。さあ、裸になって股を開け」
「…………はい」
命ぜられるまま、素直に打掛を脱いで掛下着の帯を
おかつはふたたび、戯光之介の催眠術に堕ちた。
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