責任取るべし

 北木石の鳥居近くにある手水舎ちょうずやで執拗に顔を洗うおかつは、後方で散切り頭をばつが悪そうにく斬喰郎をにらみつけながら、「責任を取ってください!」と語気を荒げた。


「責任って…………オレに何をどうしろと?」

「うっ……ううっ……うあああああああああッ!」


 突然両手で顔を隠したおかつは、その場にうずくまり、大声を張りあげて泣き始める。


「嫁入りまえの若い娘・・・が、大切な顔を汚されたのです! 責任を取って……わたしを貰ってくださいまし!」


 もちろん、これは嘘泣きである。

 先ほどの出来事は確かに衝撃的ではあったが、男前な上に巨根の持ち主であるこの男をなんとしても逃すまいと、おかつが強く心に誓っての企てであった。


「うーむ……嫁に、ねぇ……」


 困り顔の斬喰郎が、腰に差す魑獲紗丸の様子を盗み見る。女関係の話なのに、珍しく何も言わずに大人しく黙り込んでいた。


「おかつ! 何をまたやってんだい!」

「おっかぁ!?」


 返答に困り果てる斬喰郎を助けたのは、おかつの母親だった。


「おっかぁが、どうしてここに……」

「おまえの行き先なんて、ここかあの世くらいだろ? それよりも、とびきりの縁談が決まったから早く帰ってきな!」

「げっ!」


 どうせまた、年上の不細工だろう。そんなちんけな相手よりも類稀な男前の斬喰郎をなんとかしたいおかつは、思いきって腕に絡みつく。


「見てけろ、おっかぁ。斬喰郎様っておっしゃるんだ。この人がわたしを、お嫁に貰ってくださ──」

「なーに寝ぼけてんだい、おまえは! こんな男前が、おまえみたいなヘナチョコリンを相手にする訳がないだろ!」

「ちょ、ちょ、ちょっと!? 斬喰郎様ぁぁぁぁぁぁぁ!」


 強引におかつを斬喰郎から引き剥がすと、おかつの母親は腕を掴んだまま、彼女を何処いずこかへと引きずって連れて帰っていった。


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