第3話 雷雨に注意

 レルとチルは草原を歩いていた。

 チルはズンズン進んで行くが、レルは少しバテ気味だ。


「ねぇ…チル…まっ、待ってよー」


 そう言うとチルはレルの所に戻ってきた。


「どしたの、レル?疲れたの?」

「っはぁ、はぁ…な、なんで…飛んで行かないの?」


 チルは笑顔で答えた。


「だってゆっくり行きたいじゃん。もう近くまで来てるから歩いて行こうよ!」


 えへへと言いながら、屈託のない笑顔をレルに向けた。


「わ、分かったよー…でも、もうちょっと、ゆっくり歩いてよー」

「うん、いいよー!」


 その後、レルとチルの双子の死神は並んで歩いた。


「ねぇレルー、たしかブラックソウルってゴウトウだっけー?」

「うん、強盗をした男の人たちだよ。二人組なんだけどその人たちは兄弟なんだって」


 レルは真面目に答えた。


「じゃあ、あたしたちみたいだね!」

「でも、悪いことはしちゃいけないよ!」


 突然チルはレルに抱きついた。


「レルっ、あたしたちは双子の死神だから、悪いことはできないよねっ!」

「ち、ちょっとチル、いきなりどうしたの!?あ、熱いよー…」


 チルはレルに抱きついたまま離れようとしない。

 三回強くハグするとレルから離れた。


「充電、かん…りょうー!これで頑張れるよー!何でもこーい!!」


 チルは両手の拳を上に揚げて気合十分だ。

 レルは乱れた服を整え、「行くよ!」と言った。


 2人が歩いている草原の真ん中に草が生えていない場所がある。

 いつもなら虫や動物などがいたりするが、この日はいなかった。


 そこには2体のブラックソウルがいた。

 レルとチルは、背が高い草の陰から2体のブラックソウルを見ている。


「ねぇチル、隠れてどうするの?」

「うーん…観察、かな?どんな奴らか、こっそり?」


 チルは自分でもよく分かっていなそうだ。


「も、もう行かない?ブラックソウルが逃げちゃうよ」

「それもそうだね!じゃあ、せーので登場しよう!行くよ、せーの…」

「ま、待って…」


 チルは草の中から元気よく飛び出したが、ブラックソウルはうんともすんとも言わない。


「しらけちゃったね!えへへ」


 チルはしらけたのに満面の笑みだ。


「ブラックソウルはしゃべらないよ…チル」


 あとから出てきたレルは冷静につっこんだ。


 未だ動かない2体のブラックソウルは、それぞれ体格が違った。

 片方は痩せ型で、もう片方は少し太っていた。


「どうもー!」


 チルが少し近づくと、痩せ型のブラックソウルの体から濃紺の靄(もや)が立ち込めた。

 痩せ型のブラックソウルはチルに反応したようだ。


「レル、先に始めるね!行くよー!」


 チルはそう言うと、痩せ型のブラックソウルを右手の人差し指で差した。


「ゴロゴロー!」


 と言うと、チルの指先から稲妻が放出した。

 その稲妻は痩せ型ブラックソウルに向かっていく。


 だが、痩せ型ブラックソウルは高速で動けるようで、簡単にかわしてしまった。


「まだまだー!ゴロゴロー!ゴロゴロー!いぇーい!ゴロゴロー!」


 チルは連続で稲妻を放出するが全部かわされてしまう。


「チル、声に出して言わなくても、稲妻出せるでしょ!声に出したら分かっちゃうよ!」

「えー、黙ってやったらつまらないじゃん!楽しくいこうよ!」


 チルが痩せ型ブラックソウルと戦い始めた一方、レルも戦い始めようとしていた。

 レルの前には太ったブラックソウルが微動だにせずに立っていた。

 太っているといってもメタボではなく、がたいがいい感じだった。


 レルは胸の前で手を開き、手のひらを向かい合わせるようにした。

 すると、その手の中に水の塊が溜まり始めた。


 ある程度の大きさにすると、水の塊をブラックソウルに向かって飛ばした。


 そのとき、太ったブラックソウルが動きだし、地面をえぐり取った。

 えぐり取った地面を持ち上げると、レルの前の地面に投げつけた。


 えぐり取った地面が落ちると、強い風圧でレルは吹き飛ばされた。

 レルは背中を地面にぶつけて、土が少し服に付いた。


「いたたた……ふぅ…」


 レルは背中を軽くうったようで、服に付いた土を払っている。

 そこにチルが後退しながら来た。


「レルー、なかなか当たらないんだけど…すばしっこくて…」


 チルは頭をかきながら言った。


「ねぇレル。あれを試してみない?」

「えっ?でも…まだ一度もうまくいったことないよ」

「ぶっつけでやった方が、うまくいくこともあるかもしれないよ!」

「うーん…分かった。チルを信じるよ!」


 レルが空に手を向けると、どこからともなく雨雲が集まり始めた。

 そしてぽつぽつと雨が降り出した。


 さらに、チルがその雨雲に向かって人差し指を指して、稲妻を放出した。

 放出し終えると雨雲が雷雲に変わった。


「雷雨にー!」

「注意だよー!」


 そして2人が交互に叫ぶと、複数の雷が地面に降り注いだ。

 その雷はレルやチルには当たらず、痩せ型ブラックソウルと、がたいがいいブラックソウルにだけ当たった。


 雷をくらった2体のブラックソウルは、煙を出しながら跡形もなく消え去った。


 雷を出し切った雷雲は消えていった。

 すると雲の切れ間から日が差し込み、虹が出現した。


「チル、虹だよ!きれいだねー!」


 レルは虹に感動している。


「やったー!うまくいったじゃん!やってよかったね!」

「うん!」


 一方チルは、合わせ技がうまくいったことに感動しているようだ。


 その後、ゆっくりと歩きながら帰って行った。

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