第2話

一言でいうと、殺風景、でした。

元は教科準備室だったんでしょうか、あまり広くはない部屋の両側には作り付けの棚があって、低いテーブルとソファーが一組。足を組んで座る男子が一人。開けられた窓から外を眺めている女子が一人。その窓に背を向けるように、事務机が一つ。肘をつき手を組んで、私をじっと見つめている目が二つ。

他には何もありませんでした。ふーっと息を吐く音がして、窓の向こうにシャボン玉が飛びました。

「……あなたが野宮さん?」

机に肘をついたまま、彼女はそう問いかけます。切れ長の目。突き刺さりそうな視線に、私は思わず肩をすくめてしまいそうになります。

そうです、と、ようやく小さく答えると、彼女はぱっと、満面の笑顔を作りました。

「よかったわ!あなたのような人に是非参加して欲しかったの。私は生徒会長の川嶋遥。宜しくね?」

彼女は椅子を跳ね飛ばしながら立ち上がり、ずんずん私の方へ来ると、すぐ手を握ってぶんぶんと振り回しました。力が強くて、もしかしたら思わず顔に出てしまっていたのかもしれません。会長さんは慌てたように手を離すと、今度は私の肩に触れながら、他のメンバーを紹介してくれました。

ソファーに座っているのが、執行部長の生田健治さん。シャボン玉を吹いているのが、生徒会副会長兼書記兼会計の見田あいりさん。

生田さんが険しい顔のまま小さく会釈しただけで、二人とも何も言いません。

「ごめんなさいね、悪い人ではないのよ。生田くんは真面目だし、あいりは……まぁ、マイペースかな。ああしている間は誰が呼んでもああだから……気を悪くしないで」

「あ……はい、大丈夫です」

ぽんぽん、と二度、肩を叩いて、会長さんは机に戻りました。

「えーっと……新入生オリエンテーリングが終わるまでは仮入部って形になるけれど、中等部でもやってたそうだから、すぐに慣れると思うし、早速だけどみんなのお手伝いみたいなことから始めてもらおうと思うの。生田くんには了解を得ているから、野宮さんさえよかったらこの後構内を案内しながら、みんなに紹介しておこうかって思うのだけどどうかしら?」

もちろん急ぐわけではないけれど、という会長さんの申し出を断る理由は特にありませんでした。私自身、そういうことは少しでも早いほうが良いと思っていたからです。

「それならよかった。私は今日は予定があってご一緒できないけれど、代わりにそこの赤尾くんに行ってもらうから」

ぴっと指を指したさきには、さっき扉の前であった男子。さっきのようににこにこしたままたっていました。

会長さんは机の引き出しを開け、何枚かのプリントを取り出しました。それらにさっとサインをして、差し出しました。

「そういうつもりなら先に行ってくれればよかったじゃないですか。連絡のついでみたいなことしなくたって……」

「たまたま、偶然よ。じゃあ、お願いね」

赤尾さんはプリントを受け取って、ペコっと頭を下げました。私も礼をして、部屋を出ようとしました。

「野宮美雪ちゃん?」

呼び止めたのは、見田さん……でした。

窓際で振り返って、朝日の中にふわふわの髪がなびいて……お人形さんみたいな、可愛い人だな。と思いました。手に持ったシャボン液のボトルとストローがなんだか似合ってて、小さな子みたいなくりっとした目で真っ直ぐに私を見つめていました。

「は、はい!野宮美雪です」

「うん。よろしくね。美雪ちゃん」

にっこりと笑ったら、本当にお人形のようで、普通の制服なのに、まるでドレスを着ているみたいに見えました。

「はい、こちらこそよろしくお願いします……!」

なんだか急に緊張して、こわばったまま頭を下げました。ですが彼女はもうシャボン玉を吹くのに戻っていました。ふーっと息をするたびに、シャボン玉が流れていきました。

赤尾さんが扉をあけてくれて、私は慌てて廊下に出ました。少し前を歩く彼の足音は全然聞こえませんでした。

不思議な人だな。と、思いました。

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