学園戦線異状なし!
@reznov1945
第1話
三月の、まだ肌寒い朝でした。
もう春休みに入っていたので、校門に向かう人は少なく、門前に立つ執行部員の生徒もどこか気怠げに欠伸を噛み殺していました。SPと書かれた赤い腕章をつけた先輩に生徒証を見せて、門を潜ります。この紙の生徒証も、あと何日かすると新しいものに取り替えられ、その時には、チップ入りのプラスチックのものになるそうです。新入生オリエンテリングが終われば、そのチップの情報が学内ネットワークに登録され、今まで利用できなかった施設にも入ることができるようになる……と、入学説明会で聞きました。
と言っても、私は学内進学なので、おおよそのことは知っていました。それでも、高等部の校舎に入ったことは、片手で数えるほどしかありません。年に一、二度、全学集会の準備のために倉庫へ入る時くらい……その時も、先生や高等部の先輩が一緒でした。こうして、一人で階段を上がるのは初めてです。コツ……コツ……と足音が廊下に響いて、どこか不気味でした。
高等部の校舎は三棟に別れていて、中庭を囲んでそれぞれ東、西、南にあります。その内南棟は特別教室が集められていて、職員室や保健室、指導室などもここにあります。倉庫もここに。
東西の校舎は普通教室が入っていて、東が三階、西が四階建てです。その日私は、西棟四階の生徒会執行部室に呼び出されていました。
正式にはまだ中等部に属していますが、三年間執行部員だった私は、そのまま高等部でも執行部員を続けるつもりでした。そのことを担任の先生に話したところ、執行部長に掛け合ってくれ、新学期に先立って研修生として参加させてもらえることとなったのです。そのための面接をする……ということでした。
四階に上がりました。ただでさえ、休みにはいり人気の無くなった校舎の中でも、特にひっそりと静まり返り、朝だというのに幽霊でも出そうな雰囲気があります。運動部の朝練の声が遠く聞こえて、ようやく一歩、踏み出すことができました。コツ……コツ……コツ……と、自分の足音を確かめるように、一番奥の扉の前にきました。教室の扉とは違う、窓のない、白い扉。執行部室と書かれたプレートが貼り付けてあるだけ……そっと耳を近づけてみても、人の声は聞こえません。それどころか、気配すらしません。時間を間違えたのかと思って、呼び出しのプリントをもう一度見てみましたが……
「あぁ、時間はあってますよ」
急に声をかけられて、私は思わず飛び上がってしまいました。
「あはは、すみません驚かせて」
高等部の男子生徒がすぐそばに立っていました。背は私と同じくらいで、男子としては低め。隣から、私が持ったプリントを覗き込んでいたのですが……全然気がつかなかった。足音も何も聞こえなかったのに。
「えっと、野宮さんですね」
彼は私のことなんか御構い無しに、さっと扉を引いて言いました。
「みなさん揃っていますから、どうぞ。大丈夫、良い人ばかりですから。さ、遠慮しないでください」
ニコニコ〜っと人懐っこそうな笑顔。私はその裏に何故かうっすら寒気を感じながら、恐る恐る、部屋に入りました。
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