三幕目 生と死の狭間

第33話 その日の話~アクトレスデビュー~

高羽 千里たかばね ちさとです。本日は、みなさんの実践試験のサポートを務めます」


秋津 重人あきつ しげとだ。よろしく頼む」


 実践試験当日、私たちは先輩アクターから自己紹介を受けていた。


「あなたたちの名前は聞いているから、自己紹介は不要よ」


 俊平君が口を開きかけるのを、高羽さんが先回りして言う。


「さて、手元の偵察班の資料は読んでもらえただろうか?わかっているとは思うが、危険の大きいストーリーだ。油断はないようにしてくれ」


 偵察班の人たちが夢世界を一巡し、リセットとともに現実に帰還しての報告はこうだった。





 ・舞台は豪華客船。主役は、それに乗って航海を楽しむ少女


 ・夢魔は、その客船に乗り合わせた快楽殺人鬼という役。本来の少女の願望には含まれていない。


 ・夢魔の思い描くストーリーラインは、まず乗客を数人殺害の後、主役の少女がリセットを望む直前の精神状態まで追い詰めたところで、少女を自らの手で殺害し、世界をループさせるというもの。おそらく、効率的に負の感情を引き出すためね。





「夢魔の行動原理は書いてある通りだ。もちろん、俺たちが標的となる可能性も、十分にあり得る」


 雫ちゃんの表情がどんどん暗くなっていく。谷村さんや俊平君の表情も険しい。


「当面の方針としては、夢魔が化けている殺人鬼の正体の解明を優先する。俺か高羽のどちらかは、連絡役として船の後部甲板に常駐するようにするから、以降の情報交換場所はそこで訊ねてくれ」


「当然だが、自分の身を守ることを優先して行動してくれ。主役たちは殺されてもリセットすれば生き返るが、俺たちは違う。いいな」


 秋津さんの言葉に、全員が静かに頷く。





「じゃあ、覚悟はいい?行きますよ」


 こうして、私のアクターとして初めての仕事が始まった。

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