第31話 そこから10日前の話~ここへ来て3週間が経過して~

 水菜たちの家を訪ねてから一週間が過ぎた。


 ティータイムの後は、訳の分からないまま様々なテレビゲームを体験したけど、未知の娯楽はとても興味深かった。


 ・・・水菜たちに頼み込んで、予備の携帯機とゲームソフトを借り、今でも帰ってきてすぐにプレイするくらいには。


 女子会で初めてゲームに触れた時は、格闘ゲームで水菜に一方的に打ちのめされたり、ボードゲームではがっかりマスを踏み続けて消沈したりと、楽しい事ばかりではなかったけれど、気がついたら夢中になって遊んでいた。


 そして、一緒にプレイしていた水菜の仲間の人たちが、実力の全てを見せていないのはなんとなくだけれど察しが付いていた。


 あの人たち相手に、どんなジャンルのゲームで勝負すれば実力を示して、遊戯同盟に入ることができるのか、さっぱり見当もつかない。


 現時点で可能性があるとすれば、運の要素が強いボードゲームなどになってくるのでしょうけど、それで勝てるのなら、もっと在籍するメンバーが多いのではないかとも思う。


 谷村さんの口ぶりからすると、遊戯同盟への加入を希望する人は多いようだし、運だけで勝てるのならメンバー数が10人程度というのはおかしい。


 恐らく、運の比重が高いゲームでも、その前提をひっくり返すような策があると考えるのが妥当でしょうね。


 それに私としても、どうせ勝負するのなら、運ではなく実力で勝ちに行きたいと思う。


 水菜たちとゲームをしていて気づいたのだけど、私は意外と負けず嫌いだったらしい。


 初めてテレビゲームをプレイした私と、慣れている水菜たちとでは勝敗は明らかだというのに、悔しいという思いは強かった。


 格闘ゲームに至っては、水菜相手に軽く30回以上勝負を挑んでは負けを増やしていた。最後の方は、もはや意地でやっていた気もするし、周りからも温かい目で見られていた気がする。思い出すと、自分が幼稚に思えて少し恥ずかしい。





 その後、ご馳走になった夕食はとても美味しかった。千夏さんが作ったという洋食は、かつて名のあるシェフに作らせていた王宮のそれよりも、温かみがあってどこかホッとする味だった。





 それからさらに一週間、一日の半分は座学や実習に追われ、空いた時間は島の散策やゲームのプレイに費やすという日々を送っていた。そろそろ、学んだ内容の要点を整理しておこうと思う。





 ・アクターが夢世界に入った場合、姿は素体のものではなく、現実での自身の姿となる。


 ・夢物語(文字通り、夢の中の物語を指す。広義として、夢が本来辿る予定のストーリーラインを指す場合もある)がスタートした場合でも、アクターが夢の世界に入ることは可能。その場合、それまでに素体が行っていた行動などは、他の登場人物に記憶されたまま。その為、急に素体が発揮していた能力が使えなくなったりすることで、行動に齟齬が出やすくなる。必然的に、夢魔側にもアクターであることを察知されやすくなる。


 ・上記の場合でも、容姿がアクターのものに変化する点については、登場人物は認識しない。


 ・アクターが夢世界へ没入している時、現実世界の体は睡眠をとっているのに似た状態になる。また、その間、活性化した魔力が循環することで健康状態を維持しているらしく、長期間食事をとらなくても支障はない。


 ・上記の体内を循環している魔力は、夢世界で能力を行使する際に消費する魔力とは別物。夢世界で魔力を枯渇させても、生命維持に問題はない。また生命維持に使用している魔力は、一ヶ月程度は枯渇することはない。


 ・余談になるが、魔力を体内に内包しているせいか、アクターは常人よりも老化が遅いらしい。成長期の場合、身体の成長も遅くなると仮定されている。


 ・夢世界と現実とでは時間の流れ方が異なる。夢世界の1日は、現実で30分~2時間程度。夢世界の規模が大きいほど、現実に比べて時間の流れが速くなる模様


 ・夢世界がリセットされた際に限り、アクターは夢世界から現実へと帰ってくることが可能。ただし、向こうの世界での記憶はぼやけてしまうらしい。(普通に寝て夢を見た後、起きたらその記憶があやふやなのと似た感覚らしい)


 ・夢魔を退治する、あるいは夢世界が主役の願望通りの結末を迎えることで現実へ戻ってきた場合には、はっきりとした記憶を持ち帰ることができる。


 ・他人の夢世界へ初めて入った時、アクターは髪の色が変わる(体内を魔力が循環する際の副作用だと推測されている)





 水菜の仲間たちの髪が一般的な色じゃなかったのは、最後の副作用の産物ね。


 水菜は違和感のない茶髪だけど、元は日本人らしい黒髪だったとか。また、蛍斗も普段は黒に染め直しているが、アクターとして覚醒してからの髪色は銀髪らしい。白髪みたいに見えるのが嫌で、月に一度程度染め直しているのだとか。


(水菜が、黒髪の中に混じる銀髪が実に”チュウニ"っぽくて蛍斗に合っていると笑っていたが、よくわからない)


 よく考えれば、街を歩く人の中にも変わった髪色をしている人は多かった。大抵は若者だったので、日本のファッションなのかと思っていたのだが、そういうわけではなかったらしい。


 講義によると、夢魔が憑りつく相手は若者が多いらしい。「なんせ、夢見がちなお年頃だからな」と水菜が他人事のように笑っていた。貴方も若者じゃないのと指摘してやったら、にゃははと笑って誤魔化された。


 まあ、いくら上記のまとめにある体内魔力の作用で成長や老いが遅いとしても、まだ成人はしていないと思うのだけれど。(ちなみに、夢魔の存在が最初に確認されたのは4年前らしい)





 この島でアクター見習いになって3週間。研修担当の真田さんが言うには、見習いとしての研修内容はあと二週間足らずで修了するらしい。ちょうど、1ヶ月程度の研修期間ということなのでしょう。


 研修を終えた後は、先輩アクターの引率の下で実際に夢魔に憑りつかれた人の夢へ入り、学んだことの実践を行うと聞いている。


 筆記テストもあるらしいが、やはり意識は実戦テストの方へ向く。


 なんでも、事前に偵察専門のアクターが夢の内容を確認し、夢世界の概要について情報を受け取った状態からスタートするとの事だけど、不安は拭えない。私は、自身の心が生み出した怪物と命がけで戦う二人を見ている。あの時は、二人のサポートをしていればよかったが、今度は自分が矢面に立ってあのような困難に立ち向かわなければならない。覚悟の上で決めた道だけど、怖いと思う気持ちは捨てられそうにない。





 ・・・今更悩んでいても仕方がない。延々と押し寄せる思考の濁流から逃れるように頭を振り、遊戯同盟加入に向けて練習しておこうと、私は携帯ゲーム機に手を伸ばした。それが前向きな思考なのか、それとも現実逃避の結果なのか、私には判然としなかった。

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