二幕目 非日常と日常の境界

第20話 そこから32日前の話~はじめてのひとりぐらし~

私の名前はシルフィ=フロワース。


この度、国を離れて日本の離島に移住(?)してきた。


私にとっての憧れであり、命の恩人である二人と再会できたのはいいのだけれど、彼らにここで生きていくことについて猛反対され、私は早速途方に暮れることになった。


でも、後悔しても既に手遅れ。私は、もうこの島から出ることはできない。そういう条件で滞在を許されたのだから。


私の受け入れ手続きをしてくれたクレハという人物によると、私はまず夢魔についての知識の習得と、自身の夢の中での能力調査のため、1ヶ月ほどアクター見習いとして学校のようなものに通うことになるらしい。


そこで、それらの復習も兼ねて、この日記というものを書いてみることにした。


実を言うと、これまで束縛だらけの世界で生きてきた私は、初めて手にした自由というものに途方に暮れていた。


まず、今の状況を記しておくと、ケイト達が立ち去った後、アクター見習いが住む当面の寮へ行くと言われて、住宅街らしき場所の、とある三階建ての建物に連れてこられた。カードキーで建物の扉が開かれてそのまま中へと入り、3階の隅にある部屋に案内されるや否や、部屋の鍵と先程建物へ入るのに使ったカードキー、島での身分証明につかうIDカード、それに書類の入った封筒を渡されて、今に至る。


書類の中の一枚に、この寮の説明があった。どうやらここは女子寮らしく、お風呂はほかの寮生と兼用。部屋の設備は、作りつけの狭いキッチンとトイレのみ。家具は、電子レンジに冷蔵庫、エアコン、壁面の一部分にこれも作りつけのクローゼット、小さな机と椅子が一組、それに木製のベッドが一つのみ。(こっそりと楽しみにしていたテレビはなかった。かつての私の家にも、父の方針でおいていなかった)


他にも寮の規則などが書いていたが、それはあとでじっくり読むことにして、残りの書類を確認してみる。


一つは、この島の簡単な地図。この島は、どうやらかなり開発と整備が進んでいるようで、用途別にエリアがきっちり区切られていた。


次は、研修について。私が学ぶための場所は、島のエリアの一つである研究区にあるらしい。


最初の出席は2日後となっている。つまり、明日は休みということね。


到着直後ということで配慮してもらえたのかしら。


記載されている説明事項のうち何より私が注目したのは、私の他にも一緒に学ぶ仲間がいるらしいこと。クラスメイトというものかしら?


学校生活というものに、興味があった私にとっては願ってもない環境だ。


そして、クラスメイトのみんなと友達になれたらいいなと思う。


ずっと箱入り娘(私にとっては箱というより檻のほうが近いが)としての生活を強いられてきた私は、友達という存在に強い憧れを持っていた。(おそらく、私の作り出した夢があのような世界になったのはこれが理由の一つだと確信している)


しばらく、明後日以降の生活を想像して楽しんだ後、とりあえず残りの書類は明日目を通すことにして、部屋着に着替えた後ベッドへと腰かける。幸い、布団はサービスということで、安物だが備えがされていた。これも配慮だろうか。


家で使っていたそれに比べれば、簡素な作りのベッドで布団も堅い感触だったが、不快感はなかった。


むしろ、一人家から出て、自由になったという実感が込み上げてきて、わずかに興奮さえしてきた。


明日起きたら、島を探索してみよう。部屋が殺風景だから、何か飾る物でも買ってこようか・・・


などと、考えを巡らせていると、長旅の疲れからか眠気を感じたので、今夜は休むことにした。

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