第13話 最終プラン

 市街へと入り込み、合流予定地点で待つこと四分で蛍斗が到着。それから二分遅れでシルフィが金髪をなびかせながら駆け付けた。


「で、どうすんだよ」


 手短に次の方針を尋ねる。すでに黒竜は市街地の空を遊弋し、外縁から街を囲むように炎を撒き散らしている。


 こちらの退路を断ち、袋の鼠にしようというわけだ。


 いや、このまま外側から内側へと火の海を広げ、街ごとあたしたちをさせる炭にする考えかもしれない。


「こうなりゃ、対抗方法は力づくしかない。要は水菜、お前の膂力であれをねじ伏せるんだ」


「だよなー。頼りにされて光栄の至りだぜ」


 諦観だけを込めてそう返答してやる。


 蛍斗の言っていた最終プランとはとどのつまり、戦略戦術次元ではお手上げという白旗である。


 ル〇ーシュのスザ〇に対するそれに近いといえる。


 そして、そんな化け物の相手は、同じく人間離れしたあたしに丸投げというわけだ。


「気合い入れろ。お前の好きな、逆境&一人舞台じゃないか。ギャラリーにたくさんの生徒もいる。これほどのステージ、そうはないぜ」


「・・・ああ、そうだな。うまく口車に乗せられてやるよ、まったく」


 どうにかテンションを上げようと、燃えるための材料を探す。つまりは心の薪といったところか。


 いや、頼りにされるのはうれしいし、切り札扱いも本来この上なく燃えるんだが、普段ほど闘志は沸かなかった。


 一番は、前回も含めてあの黒竜にここまでの攻撃によるダメージが表面上見えないこと。


 それにはあたしの撃ち込んだ拳も含まれる。


 わずかでも効き目があると確信できたなら、何百発でも打って撃って討ちとってやるなんて燃えるところだが、正直現状ではそんなことをしても徒労としか思えない。


「うし、行ってくるわ」


「頼むぜ、エース!」


 ともあれ、頼られた以上、やるだけのことはやってみるさ。


 そう、自身の心に無理やり発破をかけて、竜が炎をまき散らす外縁部へとあたしは足を向けた。











「・・・大丈夫なの?」


「あいつの身体能力が、常人離れしているなんて言葉をとうに超えているのは見ただろう?」


「それはそうだけど、ミズナ、あまり乗り気でないように見えたから・・・」


 私は、以前ミズナの見せたやる気に満ちた姿を回想しながらギャップに驚いていた。


 てっきり、あの時のように闘志をみなぎらせて向かっていくものだと思っていたけど・・・。


「あいつは表面上、少年漫画のような熱血タイプで、ついでに活発でがさつに見えるが、内側では状況を踏まえた冷静な思考を巡らせる、面倒くさい性格をしているからなあ。何かのきっかけで、今は後者が強く出ているんだろう」


 ケイトは、やれやれとばかりに頭を掻きながら言葉をつづける。


「そうさな、自身の拳を多数叩き込んだのに効き目がなくてショックでも受けてるんじゃないかな。まったく、俺よりもはるかに心はガキだな」


 私が疑問符を浮かべていたのに気付いたと見えて、補足の説明を続けてくれた。


「自分の思い通りいかないからってダダ捏ねるなんて子供だろ?」


 いや、状況的に見れば仕方ないんじゃない?と反論しようとしたが、ケイトが続けるほうが早かった。


「ただまあ、このままいけばあいつ・・・死ぬだろうな。」


「しぬ?死ぬって!そんな!?」


「いや、そんなも何も現状であいつに勝ち目なんかねえよ」


「な・・・ならなんで!?」


「落ち着けよ、現状ではって話だ。ならその現状を変えればいい」


「・・・どうやって?」


 軽く深呼吸して、短く尋ね返す。


「俺が死ねばいいのさ。それもあいつの目の前でな」


「・・・へ?」


 意図が読めず、間抜けな声を上げる私を見て、彼は満足そうに口元だけで笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る